「禅といま」が開講20周年 前野慶応大学大学院教授が講演

「禅といま」が開講20周年

前野慶応大学大学院教授が講演

 

 

曹洞宗寺院有志が中心に活動する「禅といま」推進委員会(櫻井孝順会長)は、「禅をとおして、今をどう生きるか」をテーマに講座「禅といま」を9、10日に東京グランドホテルで開催した。開講20周年の今回は、前野隆司慶応義塾大学大学院教授「脳と心と無意識」などの講座が行われた。

前野教授はロボット研究をした後、現在は心や幸せの研究を行っている。2000年初め、前野教授は「私たち人の心は、意識できない部分の影響を受けているのでは ないか。本当は心というものはないのではないか」との思いに至る。そして「心がないとすれば、何かに捉われなくてもすむと思うと、安心して楽になった」と話し、その自分の感覚を伝えるために幸せの研究を始めた。

脳には1000億個のニューロンという素子があり、電圧のオン・オフ・スイッチのようにして我々の心をつくっているといわれている。アメリカの生理学者ベンジャミン・リベットが1983年に行った「指を動かそうとする実験」では、「筋肉への指令が発せられる瞬間」に対して「動かそうと意図する瞬間」の方が0・35秒も早い結果が出ている。

前野教授は「従来、心の中での意識が一番偉く、全てをコントロールしていると考えられていた。しかし実際は脳の中にいる小びとのようなニューラルネットワークが、自分の知らないところで知覚や感情や情動や意志を動かし、それを監視しているのが意識の正体ではないか」と受動意識仮説を提唱した。

この受動意識仮説を発表した後、いろんな人から「お釈迦さまの考えと似ているのではないか」と指摘されたという。つまり、“私はない”という無我は、「現象的意識は幻想」。“私ではない”という非我は「機能的意識は無意識の小びとの結果に追従しているということ」に相当すると。

前野教授は「本当は心というものはないのだ、幻想なんだと思うと楽になり、死ぬのも怖くなくなり、幸せになった。その私の境地は、坐禅の境地と近いのではないかと思ったりしている。ありのまま、自然のままに生き、皆さんのご縁のおかげで生きていると思うと幸せになれる」と話した。