「岐路に立つ仏教寺院」のすべきこと 川又俊則鈴鹿大学教授に聞く(上)

「岐路に立つ仏教寺院」のすべきこと

川又俊則鈴鹿大学教授に聞く(上)

 

曹洞宗が2015(平成27)年に実施した「宗勢調査」に委員として加わったメンバーが、人口減少社会における寺の実態調査を多角的に分析した『岐路に立つ仏教寺院 曹洞宗宗勢総合調査2015年を中心に』(法藏館)を刊行した。過疎地域の宗教の動向を追究し、宗教社会学の視点から2回の宗勢調査に携わった川又俊則鈴鹿大学教授に、「岐路に立つ仏教」の、その先を聞いた。(3回連載)

 

――『岐路に立つ仏教寺院』は、一般書店に並ぶ書物としては珍しい宗教団体の宗勢調査に基づく研究書です。出版に至った理由は。

川又教授 曹洞宗は寺院数が全国最大で、かつ全国分布し、地域的な偏りが少ないため、同宗が全寺院を対象に実施した「宗勢総合調査」のデータは、今後の宗教界の行方を示すと考えられます。共同編著者の相澤秀生氏をはじめとする委員は、現代宗教の課題に強い関心を持ち、その分析を宗門内外に提示し、存続の岐路に立たされている日本仏教、寺の現実を浮かび上がらせたいとの思いから出版に至りました。

従来から仏教各派は、教化推進に役立てるために質問紙形式の調査を実施してきました。個々の実態集積に留まり、宗教界を見渡す視点はなかったため、全体的な傾向をつかめていません。本書は、そこに風穴を開けようとしたのです。

 

――「宗勢調査」から、特に顕著に浮かび上がった課題は何ですか。

川又教授 寺院間の経済格差の広がりには驚きを禁じ得ません。檀家数の多寡、また、教化活動を活発に行えているかどうかで、格差は大きく広がっています。調査では、高収入・中収入・低収入と三分し、数量的にうかがい知ることのできない内容については、質問紙の自由記述の分析、私を含めた執筆者個々人のフィールド調査で得られた資料も補完的に用いました。

私が調査に加わったのは2005年と15年で、今思うとちょうど、人口減少の転換期でした。05年の調査時には檀家数に大きな変化がなく、これなら今後10年は大丈夫と感じていたのですが、その後、激変します。檀家数はそう変わらないものの、構成人数が大きく減少したからです。従来は、檀家は4~5人で構成されていると考えていまし たが、15年の時点で実態は1~2人で、その構成員が亡くなると、近くに住んでいない子どもたちは後を継がず、必然的に墓じまいなどが進んだことは、調査からも明らかでした。

15年の調査から5年がたち、現在はより高齢化が進み、ますます状況が進行しているのではないかと思います。本書では、15年時点の実態を数値で示した上で、人口減少による現状分析を各委員がテーマごとに論じています。寺院の経済問題、兼務・無住寺院の実態、地区ごとの違い、さらに墓地を造成したことで新たな檀信徒を獲得した寺院の例などを示しながら、寺院経済が教化活動や後継問題にも結びついていることを浮かび上がらせています。(続く)