ローマ教皇来日 日本の宗教界の役割は

 ローマ教皇フランシスコは24日、訪問先の広島平和記念公園に集まった日本の宗教者らと一人ずつ言葉を交わした。

 参加したのは、森川宏映天台座主、全日本仏教会会長の江川辰三曹洞宗管長、同次期会長の大谷光淳浄土真宗本願寺派門主、田中恆清神社本庁総長、庭野日鑛立正佼成会会長、鈴木穎一大本教主代理ら。大谷門主は「人々が互いの宗教を尊重して協力し、世界平和を目指す社会を作るために協力しましょう」と英語で呼びかけた。
 
 日本のカトリック信者は約 44 万人だが、世界には約13億人もいる。ローマ教皇の発信力は大きく、核廃絶を願う教皇フランシスコが唯一の戦争被爆国である日本で、どこまで言及するかに宗教界も注目していた。
 
 今回の来日で、教皇フランシスコは、歴代教皇 が容認してきた〝核抑止力〟を否定した。長崎爆心地公園でのスピーチで「核兵器は、今日の国際的また国家の安全保障への脅威に関してわたしたちを守ってくれるものではない」と踏み込んだ。続いて訪れた広島では「戦争のために原子力を使用することは、現代において犯罪以外の何ものでもない」と断じた。
 
 広島で14歳のときに被爆した梶本淑子さんは、教皇の前で自らの体験を語り、反核を訴えた。記者団には「教皇が核廃絶のメッセージを発することで、少しでも関心を持ってもらえるのでは」と期待を語った。
 
 広島に原爆が投下された1945年8月6日、投下の約2時間前に広島駅を通過していたという森川座主は「いかに科学が進歩しようとも、一瞬にして多くの人を殺すことを許してはならない」と強調。「科学で『いの ち』は作れない。我々の奥底には神仏がある。平和への願いを教皇とともに祈り続けたい」と思いを語った。森川座主は3年前にバチカンに赴き、教皇と面会。来日を要請した経緯がある。
 
 日本は来年、戦後75 年を迎える。教皇は歴史に学ぶことを訴え、「思い出し、ともに歩み、守ること」と呼びかけた。特に伝統教団は、先の大戦で戦争に加担した、消えない歴史がある。憲法や近隣諸国との関係、日米安全保障など、現代日本を取り巻く環境には「戦後」の課題がなおも山積する。
 
 今年8月の「比叡山宗教サミット32周年『世界平和祈りの集い』」で、森川座主は「暴力と憎悪の連鎖を断ち切り、互いが和とする協調の力で慈悲の心を育てねばなりません」と述べた。宗教は時に争いの契機ともなり 得るが、戦後日本の宗教界は「対話」と「協調」をもたらすことができる。
 
 教皇は言う。「過去と同じ過ちを繰り返さないために」。日本の宗教界にできることとは何か。我々も改めて考え、ともに歩みたい。(泉英明)