仁愛大学 田代俊孝学長 「諸学の基礎は哲学にあり」

仁愛大学 田代俊孝学長

 

「諸学の基礎は哲学にあり」

田代学長が井上円了師の言葉引き

 

福井県越前市の仁愛大学・同大学院は3日、入学式を挙行した。田代俊孝学長は新入生295人を前に、浄土真宗僧侶の井上円了師の言葉「諸学の基礎は哲学にあり」を引き、仏教哲学があらゆる学問の基礎になると、自らが研究してきた生命倫理学を例に力説した。就任2年目に入った田代学長にその思いを聞いた。

仁愛大学は人間学部に心理学科とコミュニケーション学科、人間生活学部に健康栄養学科と子ども教育学科の2学部4学科と大学院人間学研究科からなり、建学の精神は『仏説無量寿経』にある「仁愛兼済」。同地は浄土真宗への信仰が篤く、武生市(現越前市)からの誘致を受けて18年前に開学した。入学生の9割は県内出身で、ほとんどの学生が県内の企業に就職する。地域に密着し、「地域共創センター」を中心に、全学的に地域連携を推進してきた。

田代学長は「学園としては、旧高等女学校、女子高校、女子短期大学などで親鸞聖人の人間観を教育の根本とした長い歴史があるが、学長就任に際して、自ら目指したのは建学精神のさらなる徹底だった」と話す。

仁愛大学では、管理栄養士の国家資格合格率が100%に近く、全国でトップレベル。ほかに小学校教員や保育士、カウンセラーとして教育の分野で活躍する卒業生も多い。

北陸三県下で臨床心理士の養成機関、あるいは公認心理師の国家試験の受験資格が取れる所は、仁愛大学大学院と金沢工大大学院で、教育系では仁愛大学のみ。

就職率の高い理由を、「まじめで純粋な学生が多く、学んだことや資格を生かして社会で働こうと夜遅くまで勉学にいそしんでいる。その基礎には、どんな職業に就こうとも、高度な教養として哲学や倫理、そして宗教心が重要となる。そのため本学では、1年で全学生が『仏教の人間観』について学ぶ。その学びに込めた願いは、真理の前に謙虚にひざまずき、傲慢さを恥じる仏教の姿勢を身につけること」と説明する。

また、学長に就任直後から、地域に密着しつつ、 多文化共生も図ってきた。地域にある企業に日系ブラジル人が多数勤務していることを鑑み、学生や地域の保育士に、学長裁量経費でポルトガル語を教える講座を開くと多くの聴講生が集まり、越前市の協力を得て継続 事業として行うことになった。「地元のニーズに合ったコースの設置などを常に研究しながら、建学精神の徹底を図る。これこそが、この地に建てられた仁愛大学を存続させていく道だと感じている」と話す。

田代学長は名古屋大学医学部で生命倫理審査委員や非常勤講師を永年務め、脳死・臓器移植や、遺伝子治療、生殖補助医療などについて、医療者らと激論を交わしてきた。その経験や、AIの発展で人間がコンピューターに使われるといわれる時代が近付くといわれる今、入学生に贈ったのが、親鸞聖人に学び、哲学館(後の東洋大学)を創設した井上円了師の言葉「諸学の基礎は哲学にあり」だった。