劇団希望舞台「釈迦内柩唄」 東本願寺で17年ぶりに公演

劇団希望舞台「釈迦内柩唄」

 

東本願寺で17年ぶりに公演

火葬場を家業とする家族を描いた物語

 

劇団希望舞台が5月に「釈迦内柩唄」を東本願寺で17年ぶりに公演する。来月の公演を控え、主演の有馬理恵さん(劇団俳優座所属)と、希望舞台の荻原ゆかりさんが4月15日に東本願寺を表敬訪問した。(写真は有馬さん(左)と萩原さん)

「釈迦内柩唄」は作家・水上勉氏が花岡事件をモチーフに、火葬場を家業とする家族を描いた作品。幼少時から火葬や死体の埋葬に関心を持った水上氏の仏教体験が根底に流れ、多くの寺院や各地の仏教会でも上演されている。

1997年に始まった「釈迦内柩唄」の公演は昨年で500ステージを終えた。有馬さんは、主役のふじ子を最も多く演じ、「私の人生を変えたライフワークであり、人生の教科書ともいえる作品」と語る。

有馬さんは、同和地域と呼ばれた地で育った。高校1年生の時、母方の祖母が余命わずかとの連絡があり、生まれて初めて祖父母に会いに行く。「どんなに歓迎されるだろうか」と胸を躍らせて訪ねたが、「それ以上は入ってくれるな」と玄関の扉を閉められた。

差別に対する怒りで苦しみ、高校2年生の期末テストの期間中、演劇への造詣が深い父親から「テストより大切なものがある」と観劇に誘われた。それが浅利香津代さん主演の「釈迦内柩唄」だった。

有馬さんは「演劇が始まって35分、『同棲までしたが、火葬場の娘だと分かって、彼も逃げた』とふじ子が舞台上で泣き叫ぶ。そのシーンを客席で見ていた私は主人公よりも泣いて、そのまま気を失ってしまいました。我に返ると、舞台上で片付けが始まっていて、その後、学校を1週間も休むほどでした。自分の境遇と、ふじ子の思いとが、多感だったからこそ重なったのだと思います」と当時を振り返る。

「この作品に出会えていなかったら、自分を悲劇のヒロインに追いやったまま、人を信じることができなかったかもしれません」と有馬さんは話し、彼女たちのように力強く生きていきたいと女優を志したという。作品に出会って10年後、希望舞台の由井數代表と出会い、自ら主演することとなる。「人々の心に響く作品が私にできるだろうかと葛藤しながら、火葬場の臭い、煙を、観客の皆さんも一緒に感じてもらえることを信じて今も演じています」と。

荻原さんは20年以上前の初演を振り返り、「私自身、演劇は希望を語ることだと考えていて、火葬場が舞台の作品から希望が生まれるのかと当初は疑問でした。しかし初演後、私の心配をよそに、観客が主人公と一緒に泣いたり笑ったりし、作品を受け入れてくれる姿を見て上演してよかったと思えました」と語る。

東本願寺での公演について有馬さんは、「私たちが演じる今回の演劇と同じようなテーマで、僧侶の方々も日々布教されていると思います。私も舞台を通じて、人の優しさや命の尊厳を伝えていきたいです」と抱負を語っている。

上演は、しんらん交流館で5月10日午後6時半から、11日午後2時から。前売り3000円(当日3500円)。予約受付は、しんらん交流館で。