曹洞宗宗議会人権学習会 作家・寮美千子さんが講演

曹洞宗宗議会人権学習会

 

作家・寮美千子さんが講演

奈良少年刑務所での絵本と詩の教室

 

曹洞宗宗議会開催中の25日、議員を対象とした人権学習会が開かれ、作家・寮美千子さんが「加害者である前に被害者だった~奈良少年刑務所の絵本と詩の教室」と題して講演した。

童話作家の寮さんは、絵本と詩を使う画期的な社会性涵養プログラムの講師を9年間にわたって務め、計186人の受刑者(17歳から25歳)に授業を行ってきた。

13年前に寮さんは首都圏から奈良へ転居し、奈良少年刑務所の赤レンガの建物に興味を持ち、刑務所で行われた矯正展を見学。その訪問をきっかけに、細水令子統括官から「彼らは親から受けた虐待、ネグレクト、また発達障害など、何らかの原因があって刑務所に来た。つらい現実に向き合い、心が壊れてしまった彼らは加害者である前に被害者だった。回復のためには適切な支援が必要で、そのための情緒教育の講師をしてほしい」と依頼された。

寮さんは「1ヵ月にたった1回の授業を、1期半年間行ったところで何が変わるのか」と疑問に思ったが、最初の授業から効果を感じたという。

各作業所で特に問題のある10人ほどが受講者として選ばれ、1回目の教室ではアイヌの民話を題材とした自著絵本『おおかみのこがはしってきて』を使用。最初に寮さんが朗読した後、受講者の2人が朗読を行った。学校の教室で発言をしたこともないような受講者が戸惑いながらも精いっぱいやり遂げると教室には拍手が湧き、朗読した受講者のうれしそうな姿に手応えを感じた。

また、授業では受講生の詩を用いて、お互いに感想を述べ合ったりもしたが、「自分と同じようにつらい人生を歩んできた仲間だからこそ、相手に対して思いやりの言葉や感想を話すことで、彼らは自分自身も癒やされていった。そこでは場の力、座の力を感じた。人は人の輪の中で育つのだと思った。信じられない犯罪を起こした子も、優しい気持ちを持っているのだと改めて思わされた」と話す。

毎回、最終の授業では「こんな仲間たちに刑務所に入る前に会いたかった」と涙ながらに受講生が別れるが、寮さんは「世間に出ると彼らは前科者であることを隠してびくびくしながら生きざるを得ない。でも『今、がんばっている自分を見てください』という彼らに、『何でも話を聞くよ』という差別の目のない大人が増えてくれれば」と訴えた。