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終末期ケアを考える 沖縄大学、僧侶招き

 沖縄大学は9月25日、土曜教養講座「大切な人を最期に看取ること―終末期ケアを考える」をオンラインで開いた。高野山真言宗飛騨千光寺(岐阜県高山市)住職でスピリチュアルケア=用語解説=に詳しい大下大圓氏が基調講演を行い、沖縄県内の病院看護師2人と共に議論。約140人がケアの本質について学びを深めた。

 土曜教養講座は1976(昭和51)年に開講した一般公開講座で、今回が578回目。長年にわたって多彩なテーマを扱っており、沖縄大学の研究成果を社会に還元している。昨年、大下氏が理事を務める日本スピリチュアルケア学会の学術大会が同大学で開かれたことが、今回の開催につながった。

 大下氏は、定義の難しいスピリチュアリティーについて、「病気や事故など、自分の人生や家族にとっての危機に出現するもの」と説明。これに対処するために、医学には死生学の知見が必要だとの認識を示した。

 具体的には、死生学を「死から生きる意味を探索・省察する学問」と位置付け、宗教学や哲学、心理学などを通じ「死に対する心構えと、生の価値を問い直す試み」と指摘した。

 地元のクリニックなどでスピリチュアルケアに携わった実例も紹介。活動を始めた当初は「苦しみから救わなければ、助けなければ、役に立たなければという高慢な姿勢があった」と振り返り、「人は苦しみの中から成長すると気付いた。その後は『成長を支える』という視点を持つようになった」と語った。

 また、「苦悩は財産であり、自分を育てる『仏種』。ケアラーも家族も本人も、自分を高めつつ他者と共に生きる自利利他の関係性が重要になる」と呼び掛けた。

死生観学習 ACPと対話で

 基調講演の後には、元がん患者で看護師の上原弘美氏と、緩和ケア認定看護師の金城ユカリ氏も登壇。医師の山代寛副学長が司会を務め、大下氏と語り合った。

登壇した山代副学長、大下氏、上原氏、金城氏(沖縄大学提供)

 参加者からは、子どもが末期がんで自身もがんになった母親に対し、どのように接すればいいかという質問があった。

 上原氏は「つらい気持ちにフォーカスするとよりつらくなるので、心をほぐしながら人となりを知る」、金城氏は「結果は出なくても時間が解決することと思って、そばにいるよう心掛ける」と回答した。

 これに対し、大下氏は「全部を医師や看護師で解決しようとせず、無理しないこと」と述べ、十分な対応ができない場合に専門家に問題解決を委ねる「リファー」の重要性を指摘。スピリチュアルケア師=用語解説=臨床宗教師=用語解説=を活用し、親子に別々に関わる必要性を説いた。

 死生観をどう育むかも話題になった。大下氏は、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)=用語解説=を通じて「元気なうちから、いのちについて考えることが大切」と強調。葬儀や法事、人生の節目となる出来事を捉えることを提案した。

 一方で、死を目前にした相手に対しては「議論や決めつけではなく、死後の世界についてやりとりすることが死生観学習になる。信仰がなくても、漠然とした思いを意識化することで、死後への希望を持てる」と語った。

 沖縄大学の須藤義人准教授(宗教哲学・映像民俗学)は「参加者からさまざまな反響があり、早くも医療・看護職や研究者、宗教者らによるネットワークが立ち上がった。大学としても、スピリチュアルケアの社会人講座の開催の検討を始めたい」と話している。
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【用語解説】スピリチュアルケア
 人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

【用語解説】スピリチュアルケア師
 日本スピリチュアルケア学会が認定する心のケアに関する資格。社会のあらゆる場面でケアを実践できるよう、医療、福祉、教育などの分野で活動する。2012年に制度が設けられ、上智大学や高野山大学など8団体で認定教育プログラムが行われている。

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
 布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う、心のケアの専門職。2011年の東日本大震災をきっかけに、東北大学で本格的に養成が始まった。近年は医療従事者との協働が進む。ほかにも、浄土真宗本願寺派のビハーラ僧、キリスト教系のチャプレンなど、主に緩和ケアの現場で終末期の患者に寄り添う宗教者が知られている。

【用語解説】アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
 主に終末期医療において希望する治療やケアを受けるために、本人と家族、医療従事者らが事前に話し合って方針を共有すること。過度な延命治療を疑問視する声から考案された。「人生会議」の愛称で知られる。

(文化時報2021年10月4日号から再構成)
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重機操る僧侶、古里復旧に奔走

 真言宗豊山派浄光寺(長野県小布施町)の林映寿副住職(45)が代表を務める一般財団法人日本笑顔プロジェクトが、8月の記録的大雨で被災した小布施町の農地復旧を終えた。被害に遭った他の地域を転戦し、地元では重機やバギーの講習を重ねて災害ボランティアの育成にも努める。現地で活動を共にした民間団体や行政と連携の輪も広がっている。(春尾悦子)

浸水した民家の土砂を重機で撤去する日本笑顔プロジェクトのメンバーら=長野県辰野町

3年連続の水害に

 長野県北部を流れる千曲川。小布施町側の右岸では、河川敷の農地で名物のクリやリンゴを栽培している。この一帯が、8月の記録的大雨で3年連続の水害に見舞われた。

 最初の水害は2019(令和元)年10月の台風19号。日本笑顔プロジェクトが発足する契機となった災害だ。重機はあっても操縦できる人が足りなかったことを教訓に活動を始めた。

 今年の大雨で、プロジェクトのメンバーらは8月16日、地元農家の立ち会いの下、千曲川流域を調査。水はなかなか引かず、水没した道路や流れ着いたごみなどが行く手を阻んだ。リンゴの木は水に漬かると細菌が入って腐ってしまうといい、収穫量は激減することが確実に。「またか」。一同は胸を痛めた。

 復旧作業は9月3日に着手。「1カ月はかかるだろう」と言われていたが、延べ70人が参加し、流木や土砂などの撤去を同15日に終えたという。

長野県内でフル稼働

 地元での活動に取り掛かるまで、メンバーらは被災地を転戦していた。

 長野県社会福祉協議会の要請を受け、8月20日、県中部の辰野町で発生した土砂災害の現場に入った。堆積はひどい箇所だと高さ約4メートルになっており、民家にも入り込んでいた。

 8月23~26日に泊まり込みで重機5台をフル稼働させ、家屋の周りにあった土砂を搬出。ダンプカー約200台分にも上った。講習を終えたばかりの3人も、スタッフの指導を受けながら参加した。それでも先が見えない状態が続き、9月になって再度現地入りした。途中から小布施町の現場と掛け持ちになったが、延べ70人以上が参加して7日に任務を完了させた。

 一方で、5日夜には同じく県中部の茅野市で局地的な豪雨が発生。下馬沢川の上流で土石流があり、住宅など64棟が被害を受けた。こちらも県社会福祉協議会の要請を受けて現地入りし、復旧に全力を傾けている。

広がるネットワーク

 災害支援で出会った人たちの中から、協力者が増えている。

 7月には、静岡県熱海市の土石流災害現場で、現地のメンバーらが災害救助犬や犬を扱うハンドラーの後方支援を行った。この経験から、救助犬のボランティア団体と提携。林副住職は「救助現場に向かう救助犬とハンドラーを、ぎりぎりの所までバギーに乗せていき、少しでも負担を減らすのが目的」と話す。

 心掛けているのは「見える活動」。最初は途方に暮れる被災者たちも、大勢のボランティアと重機の威力で見る見るうちに土砂が運び出されていくと、励みになるという。

地元・小布施町の農地復旧は見込みより早く完了した

 3年前の台風19号で被災した人たちは今回、辰野町でも活動した。被災した者同士だからこそ通じ合うものがあったようだ。家屋の状況説明や家財の撤去、リフォームについて自分たちの経験を伝えたところ、住民らは泣きながら、「私たちも頑張ります。頑張らないと」と声を震わせたという。

 土石流災害の現場では、人的被害がなければ自衛隊や消防、警察の出動はなく、復旧はボランティア頼みという現実があるという。「民間だからこそできるスピード感と、連携する皆さんとのチームワークで、災害現場にイノベーションを起こせるよう全力で挑む」。林副住職は語る。

 併せて、こうした災害が今後も毎年続くようであれば、廃業する農家が増えそうだと危惧する。「行政と情報共有しながら、できることがあれば協力していきたい。全国の皆さんも、農作物を買うなど支援できることはある。民間の復旧力を強くして、笑顔を広げたい」と協力を呼び掛けている。

(文化時報2021年9月23日号から再構成)
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連日記事公開 2021年9月お彼岸

 こんにちは。宗教専門紙「文化時報」編集局です。

 今年の秋彼岸も、文化時報の新聞紙面で反響のあった記事を連日、noteでご紹介します。

 連日記事公開は9月20日~26日の7日間。いずれも「社会と宗教をつなぐ」を社是とする文化時報らしい記事ばかりです。新型コロナウイルス感染拡大で大変な日々が続いていますが、秋の夜長にお読みいただければ幸いです。

 アップされ次第、以下のnote記事にリンク先を貼っていきますので、日程表としてご活用ください。
 https://note.com/bunkajiho/n/nf1329b3592ee

新型コロナの罰則 根拠なき導入に警鐘

真宗念仏者・刑事法学者 平川宗信名誉教授に聞く

 新型コロナウイルス対策関連法が改正され、営業時間の短縮命令に従わない飲食店や入院に従わない感染者らへの罰則が盛り込まれた。前科のつく刑事罰こそ見送られたが、行政罰である20万円以下、30万円以下、50万円以下の過料が設けられたことに仏教界の関心は高く、かつてのハンセン病差別を想起させるとして、真宗大谷派は反対声明を出した。法改正の問題点は何か。「真宗大谷派九条の会」共同代表世話人で、刑事法の専門家でもある平川宗信名古屋大学名誉教授に聞いた。(編集委員 泉英明)

平川宗信(ひらかわ・むねのぶ)1944年生まれ。東京大学法学部卒。名古屋大学と中京大学の法学部教授を務め、現在は両大学の名誉教授。仏教をよりどころとする真宗念仏者として、「真宗大谷派九条の会」の共同代表世話人を務める。著書に『憲法的刑事法学の展開―仏教思想を基盤として』(有斐閣)など多数。

法改正は拙速、不適切

 《改正されたのは「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(特措法)と「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)。1月18日に開会した通常国会で審議され、2月3日に成立、10日後に施行されたことで、スピード審議を印象付けた》

──専門家から見て、今回の改正の問題点は。

 「まず非常に拙速です。安倍晋三前首相は『当面は現行法で対応する』と言い続けていました。当時、官房長官だった菅義偉首相も同様でしたが、年末に突然法改正の意向が示され、十分な議論もなく、衆議院・参議院合わせて4日ほどのスピード審議で可決した。あまりにもいきなり過ぎます。一般的に法改正で罰則を入れる時には、検討すべき要素が数多くあります。それらが全部飛ばされ、最初から罰則ありきでした。適切ではありません」

 「立法には、この法律が必要だという根拠となる『立法事実』がなければなりません。『このように感染が広がっているから、このような罰則が必要なのだ』ということが、きちんと示されていません。エビデンス(根拠)に基づいていないのです」

 「刑事罰で臨んだらどういうことが起こるのか、過料にすればどうか、過料もなく現状のままならどう推移していくのか。効果と副作用を含めて、どの対応が一番賢明であるかを考え、決めていくのが最近の刑事政策です」

憲法との整合性に問題

 《平川名誉教授は、日本国憲法との整合性や、「排除ありき」というかつての感染症対策に回帰する危険性を指摘する》

──憲法との兼ね合いはどうでしょう。
 
「改正法の内容を見ると、罰則は蔓延(まんえん)防止等重点措置と緊急事態宣言が前提になっています。これらが裁量によって決められる部分が大きい。しかも、要請命令は政令で定めます」

 「憲法が要請する通り、刑法は罪刑法定主義=用語解説=が基本です。何が犯罪となるのかを、国民に法律で示しておかねばならない。ところが、何をやったら処罰されるかが、この法律にほとんど書かれていません。政令で初めて分かるのです。『行政罰である過料ならばいいだろう』という話ではありません」

 「制裁を科す場合は合理的でなければなりません。過料に見合うだけの抑止が正確に示されない限り、合理的な制裁とはなりません。例えば営業時間の短縮は、なぜ午後8時までなら良くて、9時までならだめなのか。保健所調査への回答を拒否した場合にも過料は科されますが、守秘義務を負う弁護士や宗教者、新聞記者が、どこまで質問に答えねばならないのか。ほとんど配慮されていません」

──これまでの感染症対策の理念という観点からは、いかがですか。

 「感染症患者を危険な存在として社会から隔離排除するという考え方は、感染症患者の人権を侵害し、差別を引き起こしてきました。そうした歴史への反省が、らい予防法の廃止や感染症法の前文・本文の人権条項につながったのです。特措法にも患者の人権尊重や差別防止が書いてあります」

 「これらをきちんと考慮した上で、改正されたのでしょうか。患者差別につながる『お墨付き』を、国が与えていないか。検査や医療体制を整備する国の責任を具体的に規定するなど、患者の人権や治療を受ける権利を実質的に保障する条項を盛り込む必要があったはずです」

落ち度ではなく業縁

 《コロナ禍以降、感染者や家族、医療従事者への偏見などが表面化した。真宗念仏者として業縁=用語解説=による受け止めを説き、「穢(けが)れ」としないことを呼び掛ける》

──感染者へのバッシングが社会問題になっています。

 「バッシングする人々の感染者に対する感覚を見ていると、犯罪者や犯罪被害者への感覚との共通点を感じます。犯罪者は『社会にとって危害を及ぼす迷惑な存在で、社会から排除・抑圧すべきだ』という意識です。犯罪被害者への『落ち度があったから被害に遭ったのではないか』という偏見です。感染者のことも『危険な存在』『感染したことに落ち度があった』と見ていないでしょうか。感染自体は、いろいろな要素が重なった結果の『業縁』です」

 「犯罪とのもう一つの共通点は、穢れの問題です。日本は古代から犯罪を穢れと捉えてきました。巻き込まれた被害者も穢れた存在と見なされてしまう。そのままにしておくと神に罰を与えられるから、共同体の外に放逐しなければならない、という意識が残存している気がします。感染者のことも、穢れた存在と見ているのではないでしょうか。そう見てしまうと、家族や医療関係者にも穢れが広がります」

──解決の手立てはありますか。

 「罰則に賛同する方々は、疫病の時、強い力を持つ鬼神に祈禱(きとう)するように、国家権力に何とかしてほしいと考えているのだと思います。いわば依存であり、従属です。国家の強権に頼らず合理的な行動をとり、自分たちで危険を回避することが必要です」

 「感染しないことだけを考えると、周囲のすべてが自分に脅威を及ぼす人になってしまいます。自分だけが人間で、相手は人間ではないと思う。犯罪者を『人間じゃない』と非難する言い方を耳にしますが、誰かを『人間じゃない』と見た時には、こちらも人間性を失っています」

 「誰もが同じ人間であり、全ての命が共に生きられる世界を目指すのが本願。少なくとも感染者やその家族、医療従事者を排除しない。困っている人たちがいれば、できる範囲内で助ける。その意識で行動することによって、状況は変わるのではないでしょうか」
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【用語解説】罪刑法定主義
 どんな行為が犯罪となり、いかなる刑罰が科されるかをあらかじめ法律で定めるという原則。起源は英国のマグナ・カルタ(1215) までさかのぼるとされ、日本国憲法にも盛り込まれている。

【用語解説】業縁(ごうえん=浄土真宗)
 縁によって起こる行為などを指す。親鸞の弟子である唯円が記した『歎異抄』では、縁によっては、誰もが何をしでかすかわからない存在であることを親鸞が指摘している。

(文化時報2021年3月8日号から再構成)
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「サラナ親子教室」でお寺を身近に 地域の〝お荷物〟から大逆転

 「ゆりかごから墓場まで」という社会保障の理想を実現するには、行政だけでは難しい。ならば、地域のお寺が人の一生を支えることはできないだろうか。滋賀県東近江市の浄土宗正福寺(関正見住職)では、0歳児を連れた母親も高齢者も、くつろいだ雰囲気で同じ時間を過ごす。人間の基本を追求することが、お寺の基本なのかもしれない。(大橋学修)

サラナ親子教室の参加者とコミュニケーションを取る関住職

育児の悩み受け止める

 1月19日午前9時半。急な冷え込みで雪がちらつく中、作務衣姿の関住職が門前に立ち、車で来る親子を出迎える。「よく来たね。元気してた?」。「正福寺サラナ親子教室」の参加者だ。

 サラナ親子教室は、浄土宗総本山知恩院が教化活動の一環として取り組む子育てサロンだ。サラナは古代インドのパーリ語で安らぎを意味する。

 活動場所は本堂。この日集まった9組の親子は、教室が始まるまで自由に時間を過ごす。本堂内陣の脇間にはおもちゃが並び、まるで子供部屋のよう。法要はいつもそのままの状態で営むという。

 教室は、お勤めから始まる。関住職が唱える念仏に合わせて、子どもたちも木魚をたたく。短い法話があったかと思うと、歌やダンス、牛乳パックを使った工作、節分にちなんだ鬼退治ゲーム…と目まぐるしく活動が行われる。

 その傍らで関住職と妻の菊世さんは、親たちと子育てについて語り合う。悩みに共感したり、アドバイスを送ったり。参加者の高橋亜沙子さんは「親が肩肘張る必要がなく、リラックスできる」と話し、成田彩さんは「それぞれの子どもの思いに沿っているところがいい」と話した。

 子どもが教室を卒業した後も、8人の保護者がスタッフとしてとどまった。佐生浩子さんは「ここから離れるのが寂しくて、手伝わせてもらっている。こういうほんわかとした雰囲気は他にない」と話す。

「寺なんて負担ばかり」

 正福寺は、東近江市の旧伊野部村にある。これまで住職がいなかったり他寺院の住職が兼務したりした時期があり、地域との関係は希薄だったという。

 関住職は、奈良県御所市の眞清寺出身で、旧伊野部村とは縁もゆかりもなかったが、前住職が逝去し、後継者として入寺することになった。1995(平成7)年のことだ。

 求められてやって来たにもかかわらず、檀信徒から「寺なんて負担ばかり。メリットも何もない」という言葉が飛び出すほど、風当たりは強かった。定期法要ではお供えだけ渡し、参列しない人もいた。

 地域との関係をいかに築くかを考えているときに出会ったのが、サラナ親子教室だったという。

 妻の菊世さんは第一子を出産するまで、旧五個荘町職員として、乳幼児育成指導などの子育て支援に携わっていた。「公平な制度設計が必要とされる行政にはできない支援に、サラナ親子教室なら取り組めると感じた」と話す。

 知恩院で開かれるインストラクター養成講座に、夫婦で参加。2002年に菊世さんを教室長として「正福寺サラナ親子教室」をスタートさせた。

おもちゃが並ぶ内陣脇間

檀信徒に必要な存在

 関住職は、サラナ親子教室の開設に続いて、小中学生を対象とした寺子屋や、高齢者が交流するふれあい・いきいきサロン=用語解説=の運営にも乗り出した。いずれもサラナ親子教室の仕組みを〝応用〟したという。

 「お勤めをして、参加する世代に合わせた活動を行って、しゃべって、食べる。人間の基本なのでしょうね。それしかできないのですけど」と、関住職は笑顔で語る。

 活動を続けることで、寺に批判的な意見を持っていた人たちからも協力を得られるようになった。現在は、地域包括ケアシステム=用語解説=の拠点の一つになれないか、檀家総代と検討を始めている。

 サラナ親子教室の運営は、参加費を得てはいるものの、収支はマイナス。ただ、長い目でみれば、寺にとってプラスになると考えている。関住職は「檀信徒にとって必要な存在になれば、協力的になってもらえる。地域に貢献することが、これからの寺院の役割の一つ」と胸を張った。
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【用語解説】ふれあい・いきいきサロン
 介護予防活動などを通じて、地域の高齢者が交流する場。住み慣れた地域でいきいきと暮らせる環境づくりのため、厚生労働省が社会福祉協議会を通じ、自治会単位で開設することを推奨している。

【用語解説】地域包括ケアシステム
 誰もが住み慣れた地域で自分らしく最期まで暮らせる社会を目指し、厚生労働省が提唱している仕組み。医療機関と介護施設、自治会などが連携し、予防や生活支援を含めて一体的に高齢者を支える。団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに実現を図っている。

(文化時報2021年3月18日号から再構成)
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臨床宗教師 85%が活動自粛

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療機関や福祉施設でボランティア活動をする臨床宗教師=用語解説=のうち、85%が活動を休止していることが、谷山洋三東北大学大学院准教授(臨床死生学)らの調査で分かった。谷山准教授は、「残念ながら国内ではまだ、臨床宗教師が日常生活に欠かせない『エッセンシャルワーカー』として認められていない」と話している。(安岡遥)

講演中の谷山洋三准教授

 1月13日に龍谷大学大学院実践真宗学研究科が開いたシンポジウム「臨床宗教師研修の闇と光」で明らかにした。谷山准教授は昨年夏、山本佳世子天理医療大学講師と共同で、臨床宗教師らの現状に関するアンケートを実施。日本臨床宗教師会と日本スピリチュアルケア学会の会員104人が、昨年2月以降の活動状況について回答した。

 それによると、医療機関や福祉施設でボランティア活動を行う35人のうち、活動を継続していたのは5人。残り30人は、施設からの要請や自身の判断で活動を自粛していたことが明らかになった。

 また、職員として雇用されている臨床宗教師や医療スタッフへの業務集中を懸念する声や、オンラインや手紙などを通じ、施設外での活動を工夫して続けているとの報告も聞かれた。

 一方、米国では、ボランティアを含む病院付きの聖職者「チャプレン」が、窓越しやオンラインで患者のケアに当たり、医療スタッフらの悩みに耳を傾けているという。谷山准教授は「チャプレンの必要性を社会全体が認めている米国に対し、日本ではまだまだ認識が進んでいない」と話している。

 コロナ禍の影響は、臨床宗教師の養成にも波及。龍谷大学でも、予定していた実習の大半が中止やオンラインでの開催となった。本年度の実習生は昨年秋になってようやく、僧侶が常駐する浄土真宗本願寺派の独立型緩和ケア病棟「あそかビハーラ病院」(京都府城陽市)で、初めての対面実習が実現した。

 こうした状況を踏まえ、谷山准教授は、宗教的ケアの効果を科学的に実証することと、各教団の教義に基づく臨床宗教師の位置付けを確立することを、今後の課題に据える。「少しずつ教団内に理解者を増やし、活動の下支えにつなげたい」と展望を語った。
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【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は21年3月現在で203人。

(文化時報2021年2月8日号から再構成)
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嫌った故郷で住職継ぐ

浄土宗林昌寺 静永敬雄氏

 三重県伊賀市の浄土宗林昌寺は、「一村一カ寺」という言葉が当てはまる典型的な中山間地域の寺院だ。唯一のお寺だからこそ、寺族の一挙手一投足が地域住民の目に留まる。そんな環境を嫌って、29年間にわたり一般企業に身を置いた静永敬雄氏(56)は、4年前に専任の住職となった。「たとえ地域から人がいなくなっても、寺の存在感は発揮したい」。そう考えるまでになった心境の変化とは―。(大橋学修)

一時は「逃げ切った」

 林昌寺には、小学4年生の時に移り住んだ。僧侶で元NHK記者の父が、祖父の後を継いで住職になったからだ。6年生までは父の言い付け通り朝のお勤めに出ていたが、中学に入ると嫌に思うようになった。

 地域の人々から言動を注視され、将来は住職になるのが当然と思われている。「自分は後を継ぎたくない」。佛教大学を勧める父の反対を押し切り、金沢大学法学部に入学した。それでも父は口うるさく僧侶になるよう求めたので、道場に入りながらも修行期間を調整。僧侶になることなく、1988年4月に日本経済新聞社へ入社した。「逃げ切った」と思った。

 大阪本社販売局に配属され、販売店との折衝などで西日本各地を飛び回る日々。林昌寺に寄り付きもしなかったが、妻子をもうけたことを契機に、帰省するようになった。父は、面と向かって「帰ってこい」とは一言も言わなかったが、老いを深めていた。

 95年1月17日、阪神・淡路大震災が発生。当時は、兵庫県西宮市と芦屋市が担当区域だった。翌日にオフロードバイクで現地入りし、取引する販売店を目指して、壊滅的な被害を受けた街を巡った。世の無常を感じ、いつしか寺を継承しようという気持ちが湧いた。

 「地域に関わりのない住職が葬儀を勤めるよりも、幼い頃から見知った私が執り行った方が良いのではないか」
 
 幸いにも、伝宗伝戒道場=用語解説=に入行する単位取得方法が変更され、一般企業で就業していても道場に入りやすくなった。決算で忙しい12月の開催だったにもかかわらず、同僚たちも会社も協力的だった。2008年12月に満行し、僧侶資格を得た。

動画配信に活路

 林昌寺の法灯を絶やすまいと、17年に日経を退職し、住職に専念するようになった。地域で行われる集まりには全て顔を出し、道で出会った人には必ず声を掛ける。そうして地域と一体になろうとするのは、寺院を公的機関と考えているからだ。

 「あくまで寺に住まわせてもらっている身。だから、檀信徒がスイッチを入れるとすぐ起動できるよう、待機状態であることが必要だ」。ただ、林昌寺の立地する伊賀市中柘植(つげ)地区にも、過疎が忍び寄る。兼業農家が大部分を占め、若い世代が農業に関わる家は少ない。静永氏は「今後10年間で耕作放棄が進むのではないか」と危惧する。

林昌寺は、中山間地域の中柘植地区に立地する

 地区では毎年1月半ばに「勧請縄(かんじょうなわ)さん」と呼ばれる無病息災を祈る行事が営まれる。直径15センチほどの縄3本でしめ縄を作り、地区を流れる柘植川を渡して架ける。近年は縄を結える人が少なくなり、周辺には行事が途絶えた地区もある。そうした地区ほど、若い世代が流出して人口が減っている。

 人口減少が進めば、他の寺の住職を兼ねる兼務寺院や住職のいない無住寺院が増え、寺院消滅の危機を招く。静永氏は「兼務寺院として一時は存続できても、そうした寺院を檀信徒は信頼しない。結局、仏事を営むビジネスになってしまう」と話す。

 若い世代を、いかに地域につなぎ留めるか。

 試みているのは、懐かしい古里の風景を紹介する動画の配信だ。伊賀霊場会が動画投稿サイト「ユーチューブ」に開設した「法然上人伊賀霊場チャンネル」で、豊岡浩史念佛寺副住職、西野龍弥西念寺住職とともに伊賀霊場を巡り、地域の情景や霊場の特色を紹介している。これまでに50カ寺中21カ寺で取材を終えた。

 「住職として寺を残していくことは当然のこと。寺の存在感を発揮するためには、人との関係性が大切」と話す静永氏。かつての自分のように、地域を出て行った人々と縁を結ぶことで、いつまでも地域に心を残してもらうことを目指している。具体的な取り組みは、これからだ。
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 【用語解説】伝宗伝戒道場(でんしゅうでんかいどうじょう=浄土宗)
 浄土宗教師になるための道場で、総本山知恩院と大本山増上寺で開かれる。加行、加行道場ともいう。

(文化時報2021年1月28日号から再構成)
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連日記事公開 2021年8月お盆

 
 こんにちは。宗教専門紙「文化時報」編集局です。

 今年もお盆に合わせて、文化時報の紙面で反響のあった記事を連日、noteで公開します。

 今回の連日記事公開は8月7日~16日の10日間。いずれも「社会と宗教をつなぐ」を社是とする文化時報らしい記事ばかりです。ご先祖さまと戦没者の方々をしのぶこの時期だからこそ、仏教をはじめとする宗教のいまを知ってくだされば幸いです。

 noteのこちらのページに、URLを連日貼っていきます。
 https://note.com/bunkajiho/n/n66012e18ad21

伝統の「貝寺」発信

浄土宗本覚寺・山岡龍史住職

 和歌山県白浜町の浄土宗本覚寺は、徳川御三家の紀州藩に縁があり、藩主に珍しい貝殻の収集を命じられた歴史から「貝寺」と呼ばれている。所蔵する約千種・3万点に上る貝殻を活用し、お寺を地域のシンボルにできないか。在家出身で音響照明の仕事をしてきた山岡龍史住職(44)は「新しいことにチャレンジしたい」と話す。

隠れた所に音響照明のプロの技。機材はネットオークションで買った

 山岡住職は1976年、松山市生まれ。内装工事業を営む家庭で育った。四国八十八ヶ所霊場51番札所石手寺(真言宗豊山派)が子どもの頃の遊び場で、高校時代に読んだダンテの『神曲』でキリスト教にも死後の世界があると知った。

 専門学校を卒業後、20歳の時にイベントやコンサートで音響照明を手掛ける地元企業に就職。愛媛県や高知県の文化会館で、派遣職員として勤務した。

 結婚相手の父親は、浄土宗寺院の住職。義兄と義弟も法務を手伝っていた。人手は足りていたが、義父に「得度して寺を手伝わないか」と誘われた。「僧侶という生き方もいいかも」と、転職して仕事の都合をつけながら、2年4期にわたり修行する教師養成道場に入った。

 『観無量寿経』の一節から、自分自身が大きな慈悲に支えられていることに気付いた一方、道場では講師陣からは「教えを伝える僧侶としての姿勢」を学んだ。感じるだけでなく、伝えるのが宗教者だと思い知った。

空間を感じ、魅力伝える

 浄土宗教師としての資格を得た後も、会社勤務の傍ら休日に法務を手伝うだけだった。「果たして、これが自分自身の歩む道なのだろうか」。こなしているだけのような日々に疑問が湧いていた頃、別の寺院の法要を手伝った縁で、「貝寺」の後継者にならないかと誘われた。

 伝統ある寺だと聞いていた。だが、いつも集まるのは、御詠歌の講員と檀家総代しかいない。「寺が心のよりどころであってほしい」。2016年4月に住職として晋山した後は、地域の人々と交流するために試行錯誤した。

 「寺の空間を感じることが、阿弥陀仏を感じることに通じるはず」。音響照明の仕事をしてきた経験を生かし、翌17年1月25日の御忌大会では、刑務所で慰問活動に取り組む女性デュオを招いてコンサートを開いた。秋の十夜法要では尺八の演奏会を開催。以来、年2回程度のペースでイベントを行っている。

 少子高齢化が進み、リゾート地でありながらさびれつつある白浜町のことが気に掛かる。最近は東京に本社がある企業がサテライトオフィスを置くようになるなど明るい材料もあるが、地域の魅力のさらなる発信が必要と感じている。

 幸いなことに「貝寺」には、先代住職が整備した「貝の展示室」がある。「寺は地域のシンボル。新しいことにチャレンジし、町の発展に貢献したい」と意気込む。

(文化時報2020年12月19日号から再構成)
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