月別アーカイブ: 2020年7月

バレンシア禅堂訪問記「僧侶の初心に帰れた」

 曹洞宗宗議会元議長の砂越隆侃(すなこし・りゅうかん)泉龍寺住職(72)=相模原市南区=は今年1月17日、スペイン東部バレンシアにある和光禅寺(Templo ZenLuz Serena)を初めて訪れた。欧州の曹洞宗寺院の一つで、1989年に堂頭のヴィラルバ独照氏(国際布教師)が創建した。熱心に修行する僧侶らの姿に心を打たれたという砂越住職は「僧侶の初心に帰れた」と話す。

(Templo ZenLuz Serenaのフェイスブックから)

フランス拠点に

 欧州における曹洞宗の国際布教は、67年に弟子丸泰仙師が渡欧したことに始まる。フランスを拠点に坐禅中心の布教活動が行われ、各地に広まった。

 日本大学芸術学部出身の砂越住職は、恩師だった長塚隆二教授(後のリヨン大学客員教授)の紹介で、20代前半の頃に1年ほど仏北西部ブルターニュで過ごした。そのとき、パリ・モンパルナスの禅センターに弟子丸師を訪ねたことがあったが、運悪く、弟子丸師は大本山永平寺へ赴いていて、会うことはかなわなかった。

 その後、砂越住職は僧侶となり、2007年の曹洞宗ヨーロッパ国際布教40周年では、弟子丸師の活動拠点だった禅道尼苑(仏東部ブロア市近郊)での法要に随喜。曹洞宗出版部長時代には峨山禅師大遠忌予修法要の導師を務め、17年の開教50周年にも赴くなど、節目の法要には欠かさず参列している。

 今回は、寺院名鑑でスペインにも曹洞宗海外寺院があることを知り、「ぜひ参拝したい」と思い立って実現した。

スペインの大自然

 地中海に面したバレンシアは、1月とは思えないほどの陽光に輝いていた。空港に到着すると、2人の修行僧が砂越住職の名前を記したボードを掲げ、迎えに来てくれていた。

 車で約1時間。ブドウ畑を通り過ぎ、国定公園に向かう途中の丘に、和光禅寺はあった。山岳地のため意外に肌寒く、「修行道場に入山したことを実感した」という。

 風光明媚な33㌶の敷地に、本尊をまつる坐禅堂や食堂、修行僧や参禅者の宿舎がそろう。到着すると砂越住職は、バンガローを立派にしたような部屋に通された。そこで改良衣に着替え、坐禅堂に赴き、本尊に参拝した。
 
 堂頭の独照氏は、あいにくイタリアの禅堂の摂心に赴いていて不在だった。独照氏は若い頃には日本にいて、両本山にも瑞世したという。「ヨーロッパとスペインにおける禅について、砂越老師とゆっくりお話をしたかったのですが、残念です。またぜひお越しいただき、お目にかかれますことを楽しみにしております」とのコメントを残していた。

 空港から引き続き、2人の修行僧が山内を案内してくれた。禅堂では男女が共に修行し、男女別の宿泊施設があった。砂越住職が感銘を受けたのは、大自然の中、輪になって瞑想できる施設だった。山内には枯山水の庭も作られていた。

(Templo ZenLuz Serenaのフェイスブックから)

充実した修行生活

 食事の前には全山に響くように雲版が鳴らされ、山の中で作務をしていた人たちも食堂に集まった。6人ほどの修行僧と共にスペイン語で五観の偈を唱えて食事した。

 「いつもは応量器で食事している彼らも、私が来ているからと、特別にパエリアとバレンシアオレンジで歓迎してくれた。諸堂参拝や、修行僧の方々とも交流したが、食事の作法や、行持が綿密であることに感動した」

 和光禅寺では、年間を通して瞑想のリトリートや仏教研究のセミナー、ワークショップなど、さまざまな活動が行われており、摂心の期間には多くの参禅者が集う。約3時間の訪問だったが、修行僧の姿に砂越住職は新鮮さを覚えたという。

 「言葉は悪いが、私たち日本の僧侶は、本山や専門僧堂に僧侶としてのライセンスを取りに行っている。しかし、彼らは自らが進んで修行を楽しみ、三昧しているとも言える充実した時間を送っている」

 次の渡航先をスイスに決めているという砂越住職は、現地の禅堂を訪問することで、日本の曹洞禅が現地の人々にいかに溶け込んでいるか実感し、勇気をもらいたいと考えている。

 砂越住職は言う。「日本では見ることの少なくなった、生き生きとした修行生活を目の当たりにし、私自身が僧侶としての初心に帰れた。日本の宗侶や寺族の方々も、せっかく欧州に行くのなら、時間を作って現地の禅堂を参拝してみてはどうだろうか。きっと歓迎してくれるはずだ」

(文化時報2020年3月14日号から再構成)
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「いのちのケア」実践を 臨床仏教公開講座

 花園大学国際禅学研究所と一般社団法人アジア南太平洋友好協会が主催する「臨床仏教公開講座」が2月18日、全日程を終えた。最終講義は、臨床仏教研究所(東京都中央区)の神仁研究主幹が講師を担当。聴講生を含む70人以上を前に、「いのちのケアの実践―現代社会における臨床仏教師の使命」と題し、さまざまな苦しみの現場におけるケアのあり方を説いた。

神仁研究主幹の最終講義が行われた臨床仏教公開講座


 同講座は、臨床仏教研究所が資格認定する臨床仏教師養成関西第2期プログラム(通算第6期)の座学を兼ねている。

 神研究主幹は、臨床仏教師は子どもからお年寄りまであらゆる人に寄り添い、生老病死にまつわるさまざまな苦悩に向き合う仏教のあり方だと説明。関係性を見極め、相手のスピリチュアリティーに合わせることが重要だと話した。

 その上で、「相手のいのちに従って寄り添い、患者ファーストの医療を行っていくことが大切」と強調。「心の安寧をもたらすことがいのちのケア。安心して次の世界に行けるよう、送り出してほしい」と伝えた。

 受講した臨済宗妙心寺派の白井清牧清蔵寺住職(和歌山県新宮市)は「臨床仏教は現場に即した仏教だと感じた。今後、自分が住職を務めるうえで役に立つ学びを得ること
ができた」と話した。

生きる仏教 釈尊が原点

 臨床仏教師は、チャプレンやビハーラ僧、臨床宗教師などに近い宗教者の専門職。2013年に養成が始まった。指導役に相当するスーパーバイザーを含めて15人が活動。その範囲は病院や被災地以外にも広がっている。

 背景には、人は生まれてから死ぬまで、さまざまな段階で苦しみを抱えて「いのちのケア」を求め得る、という考え方がある。

 生死の問題に直面したとき、死への恐れや人生の意味を問う形で現れる苦痛のことを、医療界などでは「スピリチュアルペイン」と呼ぶ。専門職は、スピリチュアルペインを和らげるケアのことを「スピリチュアルケア」と言うが、臨床仏教師は「いのちのケア」と呼ぶ。仏教色を前面に打ち出した表現だ。

 臨床仏教師の活動は、釈尊の教えの原点に戻ることだともいえる。

 釈尊の教えは「臨床」を除いては成り立たない。寺院は教育や医療、福祉などさまざまな機能を担い、絶えず「臨床」の現場に存在していた。

 しかし明治期以降、学校や病院、福祉施設といった専門の施設が整備されたことで、役割は縮小。寺院が取り扱うのは葬式や法事に限定されるとのイメージが定着し、現代の日本人が、釈尊の伝えた「臨床」を仏教から連想するのは難しくなった。

 一方、近年では被災地や医療現場で活動したり、さまざまな社会課題に取り組んだりする僧侶から、仏教者らしい振る舞い方を学びたいと願う声が多くある。裏を返せば、僧侶の社会的な役割を見直す時代に差し掛かってきたと言える。

 神仁研究主幹は「臨床仏教師は釈尊のあり方そのもの。日本では『臨床』という言葉をつけないと、仏教を理解してもらえない。形式だけの仏教ではなく、原点である生きる仏教を、我々は学び直す必要がある」と警鐘を鳴らす。

 公開講座は、生老病死の全ての苦に寄り添うケアを主軸に、全10回の講義が組み立てられた。特徴的なのは、苦しみを生み出さないために、予防としての情操教育を重んじたこと。丹治光浩花園大学学長や、五位堂安養日曜学校の中村勝胤氏は、子どもに寄り添うことをテーマとした。大念仏寺社会事業団の野崎裕子氏の講義では、孤立した母親への支援などを学び、問題行動に走らない教育や問題が生じたときの寄り添い方などについて、理解を深めた。

アジア南太平洋友好協会会長の河野太通老師は、臨床仏教師への期待を語った

 最終講義の2月18日、河野太通アジア南太平洋友好協会会長は「全ての僧職者が臨床仏教師であることが理想。それこそが、これからの仏教のあり方だと思う。受講者たちがこの先、大きな影響を及ぼしてくれることを期待している」と伝えた。

 臨床仏教師は、人々の苦に寄り添い続けるためにも、多職種が連携する〝接地点〟として地域をまとめる役割が期待される。心の安寧を求める仏教者が核となれば、地域社会の環境をより豊かにしていくことができるだろう。

(文化時報2020年2月29日号から再構成)
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東北福祉大学「名誉学長」騒動 第三者委の見立ては

 曹洞宗宗門関係学校の東北福祉大学(仙台市青葉区)を運営する学校法人栴檀学園は、学長交代を機に名誉学長の授与をめぐる騒動が起きたとして、第三者委員会を設置して調査を進めている。第三者委員会は2月18日、中間報告を発表し、「適正な手続きを経ずに、名誉学長職の授与と任務に関する規定変更が行われた。前学長への名誉学長の称号授与は認められない」と結論付けた。一連の騒動の背景を検証する。
 

「名誉学長」の称号を巡り第三者委員会が設置された東北福祉大学

称号授与、一転して発令停止

 東北福祉大学の大谷哲夫前学長は、駒澤大学学長や総長を歴任した後、大本山永平寺の同安居(修行の同期)だった釜田隆文氏が曹洞宗宗務総長を務めていた2015年12月1日、学長に就任した。
 
 19年11月末の学長任期を迎える直前、鬼生田俊英宗務総長から「再任しない」旨の通達が本人にあった。その際、大谷前学長は「就任時には2期(8年)続けてやってほしいと言われた。退任するのであれば、せめて年度末の3月末まで務めさせてほしい。それまでに次期学長への引き継ぎ事項も整えたい」と申し出た。しかし、鬼生田宗務総長は許可しなかった。

 これを受けて、退任までの間に、稟議書で「人事委員会で名誉学長の称号を授与し、その任務を内規で制定したい」との伺いが立てられた。内規を12月1日から施行するという案の通り、12月1日付で「大谷前学長の名誉学長就任」が広報された。

 同じく12月1日付で、テレビ番組でも親しまれている千葉公慈氏が学長に就任。6日付で曹洞宗宗議会議員の髙橋英寛氏が理事長に就任した。13日には千葉学長名で、教職員に向け、「名誉学長の選考は表彰委員会に諮って決定することになっており、前学長が選考された事実は確認できなかった」として、名誉学長の発令をいったん停止すると報告した。

「勝手に決済印」の疑い
 
 17日には、新体制で初の理事会が行われた。理事会後、大学総務部名で報道各社に宛てた文書では、この問題を次のように説明している。

 「前執行部の任期満了直前に、勝手に決裁印を冒用し、稟議書を作成するなど、適正な稟議手続きを踏むことなく、退任役員のために新たな名誉職を創設し、職員人事を発令した疑いが判明した」

 この日の理事会で、元最高検検事の名取俊也弁護士を委員長、元検事の高橋直弁護士を副委員長、荒谷真由美弁護士を委員とする3人体制の第三者委員会を設置。名誉職の授与について瑕疵(かし)がなかったかを検証することが了承された。

 この時点では、大谷前学長は本紙の取材に対し、「私は稟議書に他人の決裁印を使っていないし、何が問題になっているのかもわからない。名誉教授や名誉学長という称号を欲しいと思ったことは一度もない」と語っていた。

 また、大学に功績があったにもかかわらず名誉教授の称号を出し損ねていた人への授与などをまとめて行う動きが学内であったと指摘。「その動きの中で、『大学教職員の皆さんが署名までして、名誉学長職の創設に向けて行動してくれたことはうれしい』と、教授会で発言したことはある」と語った。その上で「むしろ、年間4400万円に及ぶ交際費を調査すべきではないか」と話していた。

巨額の接待交際費…飛び交う怪文書

 名誉学長の授与騒動と前後して、週刊誌や地方紙が「特定の職員の交際費が単年度で4400万円を超えている」と報じた。曹洞宗関係者には、怪文書が送られる事態にもなっていた。
 
 11月末には、学園前監事の犬飼健郎弁護士が、15年度の大学の交際費について問題がある旨を指摘し「学内で調査すべきだ」とする上申書を提出した。

 この件についても、12月17日の理事会後に報道各社に出した文書で、大学側は「税務調査で経費否認を含め、是正を指摘されたことはなく、修正申告もしていない。会計監査を担当する公認会計士や税務申告を担当した税理士からも、今まで交際費について指摘を受けたことはなく、問題ないものと認識している」と反論していた。

 犬飼弁護士は、16年5月に15年度監査を実施しており、領収書などの証拠書類や元帳を精査。「15年度決算書類は法令もしくは寄附行為に従い財産および経営の状況を正しく示しており、不正事項は認められない」という監査結果に、記名押印している。この点を、大学側は「前監事が自分の行った監査を不適切であり、調査すべき旨を述べていることに大変驚いている」とも記していた。

 この時点で大学側は、職員らから聞き取りを行ったとした上で、「いずれも本校の学校運営のほか、広報およびブランド力増強の目的で、宗門関係者、マスコミ関係者、スポーツ関係者などとの意見交換や情報交換などに使われた経費であると認められ、架空経費や個人的な飲食は見当たらなかった」と、理事会でも報告していた。

保護者装い学長に苦情

 第三者委員会の調査は、関係者へのヒアリングと、関係者間のメールの解析が中心だった。

 稟議書については、印鑑のうち、総務部長のものは本人の承諾なしに押されていたことが判明。11月19日に作成されたにもかかわらず、10月25日付となっていることも明らかになった。

 さらに稟議書には、総務部が付す整理番号も振られていなかったことから、第三者委員会は「無効」と判断した。中間報告では、なぜこのような不適切な方法で稟議が通されたのかについても言及し、「大谷前学長の再任および権限や影響力の維持を図る目的でなされた」と断じている。

 メールからは、大谷前学長の再任に向けた協議の様子も鮮明となった。中間報告が行われた臨時理事会では、そのメール文章をプロジェクターに映し出して説明があったという。

 さらに前学長に近い現職教員が、保護者を装って「どうしてあなたのような者が新学長になるのか」といった文章を、新学長らに送付していた疑いがあることも判明した。

 一方で、15年度の交際費について、第三者委員会は「すでに適正である旨の監査済みの過去の交際費が、急遽問題視された背景には、前学長の再任および権限や影響力の維持を図るために、総務部長(当時)らを人事から排除するためであった疑いが濃厚」と指摘した。

 これに対し臨時理事会では、「本当に適切だったのか」との問題提起があり、交際費については第三者委員会が追加調査することも決まった。
 
 中間報告発表後、大谷前学長は本紙の取材に「交際費の4400万円が一番の問題ではないか。ブランド力を高めるとの名目とはいえ、学生の大切な学費を4400万円も使っていいわけがない」と憤る。また「第三者委員会の委員は宗門が紹介した弁護士のはず。宗門の息がかかった人物の調査を信用するわけにはいかない。事の発端は宗門が大学の人事に介入したことであり、そのことに学内の人たちは怒っていた」とも話す。

 大谷前学長はかつて理事長を務めていた都留文科大学の顧問をしている。「東北福祉大学にも顧問のような職があれば、大学の力になれると思っていた。顧問がなかったので、名誉学長として力になろうと考えただけの話」とも語っていた。

 今後は交際費の問題が焦点になりそうだ。

(文化時報2020年2月26日号から再構成)
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お寺拠点に災害支援 鍵は企業連携

 真言宗智山派の若手僧侶らで作る智山青年連合会(智青連、山口純雄会長)は2月13日、災害時の緊急支援について考える講習会「寺院がつなぐこれからの災害支援 地域×お寺×企業」を、千葉県船橋市の石井食品株式会社で開いた。被災地の寺院をベースキャンプとし、民間企業の力を借りながら僧侶が行う活動について、34人が学びを深めた。

火起こしを体験する若手僧侶ら

 学んだのは、真言宗豊山派仏教青年会(豊山仏青) の取り組み。2018年8月、豊山仏青は「イシイのミートボール」で知られる石井食品、キャンピングカーのレンタルを手掛ける株式会社レヴォレーターと災害協定を結び、僧侶が非常食をキャンピングカーに積んで被災地に届ける仕組みを整えた。

 この協定に智青連も加わることが決まり、企業と連携して行う活動への理解を深める目的で、今回の講習会を企画した。

 豊山仏青の林映寿会長の講演後、石井食品の石井智康社長、レヴォレーター社の板谷俊明代表取締役も加わって討論。災害時に寺院や僧侶に果たしてほしい役割について、石井社長は「地域に根差した情報収集」、板谷代表取締役は「フットワーク良く外に出ていくこと」を挙げた。

 その後、参加者らは屋外で火起こしの体験や非常食の試食、泥水を浄化して作ったホットコーヒーの試飲などを行った。安西研昌法恩寺副住職(埼玉県越生町)は「お寺の仲間以外から聞いた意見が参考になった。自分もつながりを作るために動きたい」と語り、山口会長は「地域と連携し、寺院が中心となって防災をリードしていくのが重要だと感じた」と話した。

震災、台風、豪雨…よりスムーズに

 宗教者による災害ボランティアは、25年前の阪神・淡路大震災を機に広がった。2011年の東日本大震災では傾聴や心のケアが注目され、近年では災害発生直後から支援に入るケースが増えてきた。真言宗豊山派仏教青年会の災害協定は、民間企業の力を生かした点に特徴があり、宗教者による緊急支援を効果的に行える可能性を秘めている。

 豊山仏青の災害協定は、石井食品株式会社、株式会社レヴォレーターに加えて、ヘリコプターを運用する株式会社AirX(エアーエックス)も参画している。18年9月の北海道胆振東部地震で、豊山仏青の僧侶らが陸路で救援物資の輸送を試みたものの、交通網が寸断されてスムーズに対応できなかったことを教訓とした。

豊山仏青の災害協定

 これが生かされたのが、くしくも豊山仏青の林映寿会長の地元、長野県を昨年10月に襲った台風19号の災害だった。県内は千曲川の堤防決壊をはじめ、家屋や農地の浸水被害が相次いだ。

 豊山仏青は発生2日後の10月15日、長野県小布施町に急遽設けた災害時臨時ヘリポートに、石井食品の非常食などの支援物資をヘリで空輸。並行して若手僧侶らがレヴォレーター社のキャンピングカーに乗り込んで陸路現地入りし、翌16日から活動を始めた。

 林会長の自坊、浄光寺は水害を免れ、被災地支援のベースキャンプとなった。避難所への仮設トイレの設置や灯油ストーブの寄付、ボランティアのための炊き出しなど、きめの細かい支援を展開。農地の泥を撤去するために重機オペレーターを養成しようと、本堂と境内を講習と実技の会場として開放した。

 寺院などの宗教施設を、災害時に支援拠点や避難所として活用する試みは、これまでも行われてきた。

 大阪大学大学院人間科学研究科の稲場圭信教授(宗教社会学)の研究グループは、宗教施設を取り込んだ地域防災の仕組みづくりを提案。世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会は、発達障害者など配慮が必要な人々の避難を受け入れるための防災マニュアルを発刊し、宗教施設への普及に努めている。

 豊山仏青の取り組みは、短期的な利益を目的とせず、社会貢献として災害支援に取り組みたいという企業のニーズをくみ取り、宗教者の活動にうまくつなげたとも言える。林会長は「いいと思ったことは即行動に移し、寺院の興隆にもつなげたい」と話している。

講習会で話す石井智康氏、林映寿氏、板谷俊明氏(左から)

(文化時報2020年2月22日号から再構成)
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外来・在宅に学べ 進む「ビハーラ僧」養成

 医療機関や福祉施設で専門知識を持ってスタッフと協働し、心のケアを行う僧侶「ビハーラ僧」を養成しようと、浄土真宗本願寺派が試行する「ビハーラ僧養成研修会」の2期生4人が全ての研修を終え、修了証を受け取った。修了生らは今後、現場に入り、人々のいのちに寄り添う。
 

修了式に臨むビハーラ僧養成研修会の2期生たち


 研修会は2017年度に開始。今期は昨年10月にスタートし、座学を中心とした16日間の前期基礎研修と、実際の施設で研鑽を積む54日間の後期臨床実習を行った。

 後期臨床実習は、宗派が母体の独立型緩和ケア病棟「あそかビハーラ病院」(京都府城陽市)と特別養護老人ホーム「ビハーラ本願寺」(同)を中心に、寺院が母体の特別養護老人ホーム「常清の里」(大阪府茨木市)、緩和ケアを行う三菱京都病院(京都市西京区)、在宅医療などを行う沼口医院(岐阜県大垣市)で実施した。

 修了式は2月27日に行われた。竹田空尊総務は、念仏者の生き方をわかりやすく説いた「私たちのちかい」に触れながら、「ビハーラ活動を必要とする人は、どこにでもいる。研修で学んだことを心にとどめ、力を発揮してほしい」とエールを送った。
 
 東京教区観專寺の稲木義成さんは、「高齢の人も病気の人も未来の自分の姿。はじめは『支えなければ』と思っていたが、人として向き合うようになり、教わることばかりだった」と感想を語った。

 石川教区本光寺の八幡真衣さんは「自身の死後に生まれるはずのお孫さんのエコー写真を片手に、『仏教を聞いても消えない欲がある。会いたい』と涙する患者さんに何も言えなかった。『一緒に泣いてくれてありがとう』と言われたことは忘れられない」と話した。

 和歌山教区浄永寺の山本顕生さんは、龍谷大学大学院実践真宗学研究科の2年生。「実習時間の長さが特長」と、ビハーラ僧養成研修会の利点を挙げる。「在宅医療に関わる看護師さんが、『医療者が聞けない思いを受け取ってくれてありがとう』と、実習生の自分に声を掛けてくれたことが印象に残っている」と述べた。

 和歌山教区教法寺の森薫さんは「自身の家族との接し方も変わった」と明かす。「『仏教のまなざし』をより意識しはじめた。中学生の長女の悩みを聞いても、頭ごなしに説かず『そういう見方もある』と考えるようになった。ビハーラ活動は生き方だと思う」と語った。

決めつけず、苦悩を聴く

 4人は緩和ケア病棟での外来診療や、在宅医療の現場にも同席した。患者や家族から僧侶の存在感やケアをより必要とされる場面で、対応などを学んだ。

 「何もしなければ半年。治療して1年と診断された」。2月4日に行われた三菱京都病院での臨床実習では、外来を訪れた50代男性が、自身のがんについてこう打ち明けた。11年前には母親を他の緩和ケア病棟で看取ったという。

 担当の吉岡亮医師は、男性の暮らしや病状を聞きながら、がんの進行に伴う病状などを丁寧に説明。自宅付近の在宅医療機関で受診することなども勧めながら、延命治療の希望を聞いた。男性は「苦しむぐらいなら、延命治療は希望しない」と答えた。

 同席した実習生の八幡さんは「男性は、残された人が苦労しないよう、全てを処分しようとしているようだった」と語った。

 八幡さんは、これまでの三菱京都病院の実習でも外来診療の現場を経験。家族に負担をかけたくない患者や、悲嘆する入院患者の家族が苦悩する姿も見てきた。「『諦めないでほしい』と話す家族に、医師は『緩和ケアは、諦めではない』と諭していた。医師と患者の関係性がなければ、僧侶が立ち入ることも難しいと感じた」と振り返った。

緩和ケア病棟の病室で患者の苦悩に寄り添う=京都市西京区の三菱京都病院

 
 緩和ケア病棟に入院する荒堀明夫さん(84)は、部屋を訪れた同病院ビハーラ僧の山本成樹氏と八幡さんを、暖かく迎え入れた。山本氏は笑顔で、成功と失敗を繰り返した波乱万丈な半生を聞いていく。「こんな体でも誰かの役に立てれば」。荒堀さんは医学生向けの献体を申し出ているという。

 山本氏は八幡さんに「『患者さん』ではなく、『荒堀さん』と出会っている。好きなことを語っているときは、広がりを持って話をしてくれることが多い」と説明した上で、こう伝えた。

 「本当の苦しみはわからない。『わかります』という言葉は、使わない」

 八幡さんは研修後、石川県小松市の自坊に帰った。「研修を通じて『自分』以外を見る視野が広がった。日常の寺院活動にビハーラの視点は欠かせないと感じる。その人にしかない輝きを感じ、決めつけない僧侶になりたい」と話している。

(文化時報2020年2月15日号・3月4日号から再構成)
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【速報】西山浄土宗、宗会を解散 京都西山学園巡り

 西山浄土宗宗会(櫻井寛明議長)は22日、第136次臨時宗会を開き、櫻井随峰宗務総長が解散を宣言した。議会の介入が許容範囲を超えたためとしている。議会制度が創設されて以来、解散は初めて。50日以内に宗会議員選挙を行い、議員選出後30日以内に改めて臨時宗会を開く。

解散された西山浄土宗宗会=22日

 西山浄土宗の宗会は、宗務総長が招集するほか、宗会議員の半数以上の要求により、議長が参事会の意見を聞いて、宗務総長に招集を要請する。今回の臨時宗会は、議員20人中16人が招集を要求。櫻井寛明議長は、内容が宗会開催の要件を満たさないと考えていったん差し戻したが、再び要求があり、櫻井随峰宗務総長に招集を求めた。

 議会側は、議員立法による議案上程をせず、内局に答弁を求める質疑4項目を「議員発議案」とした。この中に「西山浄土宗と京都西山学園、特に京都西山短期大学の関係の現状について質問を求める」との項目があり、これについてのみ秘密会で議事を進めた。

 京都西山学園の運営内容を別法人の宗会で明らかにすることは、守秘義務違反になる。そのため内局は「互いの運営に直接介入できないことを留意した上で対応を願いたい」とする学園の法人事務局長と顧問弁護士の談話を伝えた。議会側が納得せず、さらに質問を重ねようとしたところ、櫻井随峰宗務総長が解散を宣言したという。

和合の心で済ませたかったが…

 議会側は、京都西山短期大学の人事権や、櫻井随峰宗務総長が総長退任後、京都西山学園の理事に就任することに関して質問しようとしていたもようだ。散会後、議員からは「紳士的な対応を行おうと秘密会にしたのに、こんな横暴な対応は許せない」などの声が上がった。

 櫻井随峰宗務総長は「議案を提案することなく開会された宗会であり、議会としての要件を満たしていない」と指摘。その上で「弁護士の答えが全てであり、宗会で審議する内容ではない。その範疇(はんちゅう)を超える議論をしようとするならば、解散せざるを得ない」と話した。

 櫻井寛明議長は「和合の心で、話し合いによって済ませたかった。僧侶は、言葉で教えを説く。考え違いがあっても、議論の中で誤解を解くことができればと思っていたが、こうなったことは残念」と語った。

 西山浄土宗は、京都府長岡京市の光明寺を総本山とする伝統仏教教団。専修念仏を広めた法然上人を宗祖とし、その弟子の西山国師証空上人を派祖としている。傘下の寺院数は約600カ寺で、愛知県以西に広く分布する。

医療従事者「支えは仏教」

 医療・介護関係の多職種連携を目指すNPO法人「Life is Beautiful」(山下和典理事長)のセミナー「いのちの学び2」が、京都府長岡京市の中央生涯学習センターで開かれ、華厳宗僧侶で医師の川島実氏と、高野山真言宗僧侶で看護師の玉置妙憂氏が「死にゆく人のこころに寄りそう」をテーマに対談した。

 同法人は2018年12月、医師や歯科医師、栄養士、作業療法士らがメンバーとなって設立。障害や病気を持つ人とその家族が「生活者」として生きられるよう、月1回のセミナーなどを通じて学びを深めている。対談は20年2月11日に行われた。

 

対談する僧侶で医師の川島実氏(左)と僧侶で看護師の玉置妙憂氏

手を合わせて送る―川島実氏

 川島氏は京都大学医学部在学中にプロボクサーとなり、自給自足を目指して和歌山県の山奥で暮らすうち、地域医療に関心を持つようになった。現在は在宅医療の専門医として活動している。

 救急病院で勤務していた頃、担当していた患者を亡くして心が弱っていたことがあり、コピー用紙の裏にボールペンで般若心経を書き写していたという。母校の東大寺学園高校の先輩に当たる僧侶に誘われ、得度。「手を合わせれば患者や家族に喜ばれるが、あくまで自分を守るためにやっていること」と語った。

 また、霊安室で、亡くなった患者の家族に「われわれの力が及びませんでした」と頭を下げることに違和感を覚えるようになり、以後は手を合わせて送り出すようになったと明かした。

 東日本大震災の救援で宮城県気仙沼市に入り、話を聞いて薬を出すことしかできず「ごめんなさい」と思いながら診察していたのに、患者から「ありがとう」と言われたことに感動し、志願して現地の公立病院に転職したエピソードも紹介。

 父を自宅で看取った経験から、在宅医療の現場では患者が亡くなったとき、最期まで共に過ごせたこととつらい介護から解放されたことに対して、「良かったですね」と言うようにしていることを明かした。

医療が生む苦しみ―玉置妙憂氏

 玉置氏は看護師免許を取得後、夫をがんで亡くした。延命治療を望まなかった夫を自宅で看取った後、出家を決意。高野山で約1年間修行した。

 現在は看護師として勤務する傍ら、訪問スピリチュアルケアを手掛ける「大慈学苑」(東京都江戸川区)の代表として活動している。玉置氏も、仏教について「自分自身の支えであり、人の支えになるとは決して思っていない。だからこそ患者や家族に布教はしない」と語った。

 また、現代医学は延命至上主義をもたらし、生と死の境目をあいまいにしたと指摘。寿命や天寿という言葉で示されるように「後は仏や神に任せる」という死がなくなったと言い、「現代医学は、たかが人間である私たちに、延命措置をするかどうかを選べと言っている。そうして新たな苦しみを作り出した」と強調した。

 さらに、在宅で看取った夫の延命治療をしなかった経験などを引き合いに、「選択肢があれば必ず迷い、どちらを選んでも後悔する」と語った。

 こうしたスピリチュアルペインに対処している医療・介護従事者、家族らは、仏教でいう「利他行」を実践している半面、その前提には「自利」が必要だと指摘。「最初に自分のコップを水で満たすことが大切」と説いた。

(文化時報2020年2月19日号から再構成)
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ラオスで仏像修復20年 身延山大学、技術伝承

 日蓮宗の宗門学校、身延山大学が、ラオスのルアンパバーン世界文化遺産地域における仏像修復事業を立ち上げてから、今年で20周年の節目を迎えた。戦災で破壊された仏像を元の姿に戻し、技術を伝承しようという息の長い取り組みだ。

ラオス・ワット・アーバイ寺院で行われた修復作業(身延山大学提供)

 ラオスはインドシナ半島の内陸に位置する人口約650万人の国で、首都はタイ国境のビエンチャン。男性のほとんどが一度は出家して僧堂生活を送るといい、国民の多くは上座部仏教をあつく信仰している。

 19世紀はフランスの支配下にあり、20世紀になっても旧日本軍の進駐やベトナム戦争の主戦場になるなど、長く戦乱が続いた。1975年の建国後も、戦災復興に労を費やし、仏像の修復技術が絶たれていたという。
 
 修復事業が始まったのは、ラオスで教育支援活動を行っていた超宗派のBAC仏教救援センター(伊藤佳通理事長)から、仏像群の損傷が著しいと知らされたのがきっかけ。柳本伊左雄・仏教芸術専攻特任教授は「壊れた仏像を目の当たりにしたとき、同じ仏教徒として見過ごせないと責任を感じ、行動に移した」と話す。

現地の僧侶と身延山大学仏像制作修復室のメンバーら。「同じ仏教徒として見過ごせない」との思いで協力する

 2000年にルアンパバーン地域の36カ寺で調査を行い、仏像の素材や彩色、彫刻や技法についても研究を重ねた。翌01年にはラオス情報文化省と協定を結び、修復活動を本格化させた。
 
 これまで修復した仏像は74体にのぼり、調査記録と修復記録を作成している。2019年度は、ブロンズ1体、木彫3体、約4㍍の漆喰仏の金箔貼りを手掛けてきた。
 
 持田日勇学長は「崇拝の対象である仏像が修復されたことはもとより、世界に向けてラオスの仏教文化を発信し、国の発展に微力ながら貢献できたのではないかと感じている。事業が本学の誇れる特色となったこともありがたく思っている」と振り返る。
 
 柳本特任教授は「これまで修復活動をご支援くださった方々のためにも技術を高め、日本とラオスの両国で技術伝承に励みたい」と、事業継続と発展を誓っている。

 2月19日にはラオスのビスンナラート寺院で、身延山大学とルアンパバーン仏教連盟が合同で法要を開催。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する直前のタイミングで実現した。持田学長をはじめ、総本山身延山久遠寺の僧侶らと現地の僧侶らが出仕したという。

(文化時報2020年2月8日号から再構成)
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知恩院御影堂 380年前の輝き

 浄土宗の総本山知恩院(京都市東山区)で今年、国宝御影堂の大修理事業が完了した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、4月の落慶法要は大幅に縮小して営まれ、政府の緊急事態宣言が出ていた時期は、境内への立ち入りが禁止された。2011(平成23)年から9年に及んだ〝平成の大修理〟で取り戻した輝きは、いま再び参拝者の心を癒やそうとしている。

平成の大修理を終えた知恩院御影堂=京都市東山区

 知恩院の創建は、法然上人入滅の地に堂宇を建てたのが始まりだ。徳川家の庇護を受けたことで広大な伽藍整備が行われたが、1633(寛永10)年の火災で大部分が焼失。現在の御影堂は、焼失の6年後に徳川家光が再建したもので、2002(平成14)年に国宝に指定された。

 これまでに屋根の一部ふき替えや梁の補強など小規模な修理が4回行われたが、大規模修理は今回が初めて。総工費は、衆会堂の文化財修理費を含めて57億円(荘厳仏具を除く)という。

 報道陣に堂内を公開した1月29日、井桁雄弘執事長は「法然上人800年大遠忌事業に端を発して修理に入り、9年たって素晴らしい御影堂が完成した。お念仏の根本道場として幸せを運びたい」と語っていた。
 
現代の耐震基準 当時から満たす

 知恩院御影堂は、江戸時代初期に徳川家が各地で手掛けた大造営を示す代表的な建築物と位置付けられており、意匠や技術の面でも完成度が高いとされている。大修理を控えて実施した耐震診断調査では、約380年前の建築物にもかかわらず、現行の建築基準法の基準を満たしており、震度6強の揺れにも耐えられることが判明している。
 
 僧侶が立ち入る内陣と在家信者が礼拝する外陣が、一体と感じられるような空間設計も行われている。江戸初期の堂宇は、内陣と外陣が明確に分かれているのが一般的だが、知恩院御影堂は内外陣に段差を設けず、一体感を保っている。内陣まで光をとり込んで堂内を明るくする工夫もされている。

豪華な金箔押しを施した内陣に、光が届く

 堂宇全体をきらびやかに覆うのではなく、内陣の荘厳のみに豪華な金箔押しを施しているのも特色。導師が座る頭上に配した豪華な人天蓋(にんてんがい)や幢幡(どうばん)は天井から吊り下げてあり、豪華な厨子の宮殿(くうでん)と連続性を保たせてある。威圧するような大伽藍でありながら、身近に感じられる仕掛けといえる。
 
 今回の大修理に当たり、荘厳類の制作や修理が施された年代が判明した。

 人天蓋など大型荘厳の一部は、御影堂の再建当時のものが用いられていることが分かった。高さ約4㍍の大常華は、廃仏毀釈で仏教教団に逆風が吹いていた頃の1878(明治11)年、知恩院75世の養鸕徹定(うがい・てつじょう)門主の指揮で制作されていた。
 
 いずれの荘厳仏具も経年によるゆがみや傷みが見られ、修理は難航したようだ。大常華や大前机などの修理を担当した株式会社安藤の担当者は「長持ちするように強度を保たせるのに苦労した。いずれも長大で重量があり、熟練した職人でなければ美しく仕上げることができないものばかりだった」と話していた。

(文化時報2020年2月5日号から再構成)
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気候変動で非常事態宣言 宗教界初

 深刻な環境破壊や異常気象を食い止めようと、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会は、「気候変動への非常事態宣言」を採択した。WCRP日本委員会によると、宗教界では初の試み。さまざまな実践を通じて、「気候危機」への世論喚起につなげたいとしている。
 
 非常事態宣言は「地球環境がもはや元に戻らない危険水域に入っている」と強調。森林減少や海洋汚染などの課題解決に向けて「歴史上、前例のない規模とスピードで取り組む必要がある」と指摘し、非常事態の認識を共有して実践することが必要だと訴えた。
 
 具体的には、「もったいない精神」や少欲知足に基づくライフスタイルの確立▽宗教施設の森林保護と環境負荷軽減▽環境保護につながる投融資や商取引―などを提唱。国内の選挙で、地球温暖化対策の新しい国際ルール「パリ協定」の達成を争点化するよう呼び掛けることも盛り込んだ。

 非常事態宣言は、東京都杉並区の立正佼成会法輪閣で1月28日に行われたWCRP日本委員会の第30回理事会・第19回評議員会で採択された。理事会・評議員会では、特別事業部門(タスクフォース)の再編も承認され、気候変動タスクフォースが「気候危機タスクフォース」に名称変更されることも決まった。
 
 一連の取り組みは昨年8月、ドイツ・リンダウで行われた第10回WCRP世界大会で、気候変動に対する宗教コミュニティーの緊急行動がテーマになったことが背景にある。植松誠理事長は「今日の地球温暖化は危機的な状況にある。日本委員会としてもアクションを起こさねばならない」と話した。

(文化時報2020年2月1日号から再構成)
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