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ビハーラから地域包括へ 東西本願寺僧侶ら勉強会

 東西本願寺の僧侶が宗派を超えて医療・介護従事者と連携する動きが、富山県南砺市で始まった。同市政策参与を務める南眞司・南砺市民病院前院長の呼び掛けで、市内の僧侶約20人が1年半前から協議。11月7日には、チームを組む医師、看護師、ケアマネジャーらとの初の意見交換の場となる「看仏連携勉強会」を南砺市地域包括ケアセンターで開いた。宗教者が行政の協力を得て地域包括ケアシステム=用語解説=に参画する新たな取り組みとして注目を集めそうだ。(編集委員 泉英明)

それぞれの立場で話し合った「看仏連携勉強会」

 勉強会では、田代俊孝仁愛大学学長が「医療者と僧侶が協働し、地域共生社会の実現へ―地域包括ケアにおける医療と宗教の連携の可能性」と題して講演した。

 田代学長は、ビハーラ=用語解説=の経緯や、仏教を学ぶ医療者による「ビハーラ医療団」の結成などを振り返った。「仏教は悩んでいる人のためにある。死にゆく身のまま『私でよかった』と受け止められるような価値観の転換が僧侶の仕事」と指摘。その上で「医療者も介護者も宗教者も一人では何もできない。チームを組み、一緒に気付いていく学びを進めてほしい」と、協働を呼び掛けた。

 参加した約60人は、それぞれの立場で意見や質問を出した。訪問看護を行う看護師は、患者の物語を聞くことの難しさを明かし、介護職員は「今こそ僧侶の出番では」と語った。

 また、別の訪問看護師が、家族に自身の考えを言えずに我慢する患者がしばしばいることを話すと、ケアマネジャーが、担当者会議で情報交換しながら解決につなげる形があることを示す場面もあった。

 浄土真宗本願寺派の栗山宣雄本福寺住職は「今でも公立病院には僧衣姿で入れない。檀家制度を含めて根本的な課題はあるが、医療者側からの働き掛けで始まった取り組みでもあり、宗派を超えて今後につなげたい」と語った。

講演する田代俊孝仁愛大学学長

「幸せ度」向上に力を

 東西本願寺僧侶による協議は、南眞司・南砺市民病院前院長の働き掛けで、真宗大谷派の太田浩史大福寺住職らが宗派を超えて地域医療に貢献しようと呼び掛けてきた。

 1年半前から在宅介護や終末期医療の現場、臨終説法などについて定期的に意見交換。今回の看仏連携勉強会は、医療・介護従事者と僧侶が広く連携する第一歩となった。

 「私の父が亡くなる直前、僧侶が臨終説法をする姿があった。今は、一対一で対機説法をする機会はほとんどないと聞く。地域の中でお寺が本来の役割を果たしてほしい」。南前院長は僧侶への期待をそう話す。

 協議を開始した直接のきっかけは、南砺市が実施した「幸せ度」に関するアンケートだった。要介護認定で最も重い「要介護5」とされた人の11.7%が「とても不幸」と回答。市内の70代女性の自殺率が全国平均の3倍以上の水準に達し、しかもその全員が家族と同居していたことが明らかになった。

 南前院長は医療者であると同時に、南砺市の政策顧問として、地域包括ケアシステムの推進に尽力している。「医療者や介護者は懸命に患者を支えているが、まだ足りない」と考え、南砺市に熱心な浄土真宗門徒が多いとに着目。大谷派井波別院瑞泉寺の暁天講座への出講を機に、東西本願寺の僧侶との連携を構想したという。

 今回の勉強会を共催した南砺市訪問看護ステーションの吉澤環所長は、在宅看護の現場で、家族が僧侶に患者へ話をするよう求め、穏やかな死を迎える姿を目の当たりにしたという。「医療者も寄り添うことを心掛けるが、どうしても常識から入ってしまう。命の終わりが決して最後ではないことを説いてほしい」と話す。

 田代俊孝仁愛大学学長は「医療従事者の理解を進めようとビハーラ医療団を立ち上げて活動してきたが、行政や医療界が僧侶と連携する例はまだ少ない。ビハーラ活動が刑務所・拘置所での教誨師のように、地域に根付いた活動になってほしい」と、南砺市での取り組みに期待を寄せた。
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【用語解説】地域包括ケアシステム
 誰もが住み慣れた地域で自分らしく最期まで暮らせる社会を目指し、厚生労働省が提唱している仕組み。医療機関と介護施設、自治会などが連携し、予防や生活支援を含めて一体的に高齢者を支える。団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに実現を図っている。

【用語解説】ビハーラ(仏教全般)
 サンスクリット語で「僧院」「身心の安らぎ」「休息の場所」などの意味。仏教ホスピスに代わる用語として、当時佛教大学の研究員だった田宮仁氏らが1985年に提唱した。その後、主に浄土真宗本願寺派が、医療・福祉と協働し、生死にまつわる人々の苦悩を和らげる仏教徒の活動を「ビハーラ活動」と称するようになった。

(文化時報2020年11月18日号から再構成)
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性的少数者の龍谷大生が語る「他者への優しさ」

 浄土真宗本願寺派の宗門関係学校、龍谷大学で10月23日、学内外に向けたオンライントークイベント「LGBTQ+を語る」が開かれた。文学部臨床心理学科3年の山崎ゆきあさんが、性的少数者の当事者として経験を語り、知識と想像力に基づく「優しさ」の重要性を訴えた。(安岡遥)

当事者の山崎ゆきあさん

 山崎さんは、男女のどちらにも当てはまらない性で、中性・両性・無性など、個人によってさまざまな傾向がある「エックスジェンダー」にあたる。身体的には男性で、精神的には男女の中間である「中性」と、いずれにも属さない「無性」の状態を行き来しているという。「中性の状態では、服装や所作を女性に近づけることで身体の性とのバランスを取るが、無性の状態では男性の身体を受け入れることもできる」と話す。

 “山崎ゆきあ”は通称名で、学内でも使う。「出身地について話すように、セクシュアリティー(性)を語れる世の中を作りたい」との思いから、学内の講演会や会員制交流サイト(SNS)を通して自身の考えを発信してきた。

 2019年は、浄土真宗の精神に基づく学生の活動を大学が支援する「仏教活動奨学生」に応募。より多くの人々に性的少数者の存在を知ってもらうためのラジオ番組の制作などを通して、「学内から学外へ、私の声が届く範囲を少しずつ広げていきたい」と意気込みを語る。

多様性、真に認めて

 山崎さんは、幼い頃から自身のセクシュアリティーに違和感を抱いていたという。趣味や好みが女性に近く、男性として扱われることになじめなかったが、女性としての接し方を望む気持ちもなかった。

 大学の講義をきっかけに、エックスジェンダーという言葉を知り、当事者であることを自覚。「救われた気持ちになった」と振り返る。

 一方で、「言葉や概念を知ることと理解することはイコールではない」と指摘。

 例えば、LGBTの呼称は、女性の同性愛者レズビアン(L)、男性の同性愛者ゲイ(G)、両性愛者バイセクシュアル(B)、身体の性と心の性が異なるトランスジェンダー(T)の頭文字を取っている。

 性的少数者全般を表す意味で使われることもあるが、自分の性別が分からないクエスチョニング(Q)やエックスジェンダーなど、LGBTに含まれないセクシュアリティーの知名度は依然低い。「性的少数者は普通と違う、かわいそうな存在だ」などと誤った認識にもつながりかねず、過剰な配慮を一方的に押し付ける「逆差別」が起きる場合もある。

 こうした問題について、山崎さんは「多様性という言葉が誤って理解され、多様性を認めない姿勢が悪とされてきたことが一因」と分析。「そもそも、差別や偏見は誰の心にもある。問題はそれを外に向け、相手を攻撃することだ」と力を込める。

 その上で、行き過ぎた配慮や特別扱いではなく、正しい知識と相手への想像力に基づく「優しさ」が必要だと強調。「多様性とは、自分と違う存在を『さまざまな人がいる』と受け止めること。他者を完全に理解することは不可能だと知った上でなお、知る努力や想像する努力を続ける必要がある」と、山崎さんは呼び掛けた。

社会の10年先を行く

 自分がどの性に当てはまると感じるか(性自認)、どの性に性的魅力や恋愛感情を覚えるか(性的指向)などに基づいて、男女以外にも多様なセクシュアリティーが存在することが、国内でも近年、広く知られるようになった。

 浄土真宗を建学の精神とする龍谷大学は2016年、性的マイノリティーの現状を把握する目的で、学生と教職員を対象にアンケートを実施。回答者の15%が性的マイノリティーであることを自認し、セクシュアリティーへの無理解な言動にしばしば直面している状況が明らかになった。

 そこで大学は、学生らがセクシュアリティーを理由に差別やハラスメントを受けることなく生活できるよう、人権問題などに取り組む宗教部を中心にさまざまなサポートを展開している。

 宗教部の安食真城課長は「私たちは、ともすれば自分の感覚が『普通』だと思い込みやすい。良かれと思って気を回しすぎ、逆に相手を傷付ける場合がある」と指摘。「何をするにも、まずは当事者の話を聞くことから」として、セクシュアリティーについて気軽に語り合える茶話会や相談室を設けている。

龍谷大学宗教部の安食真城課長

 学生の意見を踏まえた取り組みの一つに、性別や障害の有無などにかかわらず使用できる「だれでもトイレ」がある。「男女別のトイレだけでなく、性自認に応じて選択できるトイレがほしい」との要望をきっかけに「多目的トイレ」から名称を変更し、京都市と大津市の全学舎に計60カ所以上設置されている。

 また、山崎さんのように、戸籍上の名前と異なる通称名で過ごすことを希望する学生も少なくない。将来戸籍名を変更する場合、通称名の使用実績が考慮されることを踏まえて、大学が発行する証明書や出席名簿に通称名を記載できる制度の整備を検討しているという。

 「若い世代が集まる大学は、社会の10年先を行く必要がある。支援を必要とする学生がいつでも気付いてくれるよう、今後も取り組みを発信し続けたい」と、安食課長は展望を語った。

(文化時報2020年11月7日号から再構成)
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