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連日記事公開 2021年9月お彼岸

 こんにちは。宗教専門紙「文化時報」編集局です。

 今年の秋彼岸も、文化時報の新聞紙面で反響のあった記事を連日、noteでご紹介します。

 連日記事公開は9月20日~26日の7日間。いずれも「社会と宗教をつなぐ」を社是とする文化時報らしい記事ばかりです。新型コロナウイルス感染拡大で大変な日々が続いていますが、秋の夜長にお読みいただければ幸いです。

 アップされ次第、以下のnote記事にリンク先を貼っていきますので、日程表としてご活用ください。
 https://note.com/bunkajiho/n/nf1329b3592ee

新型コロナの罰則 根拠なき導入に警鐘

真宗念仏者・刑事法学者 平川宗信名誉教授に聞く

 新型コロナウイルス対策関連法が改正され、営業時間の短縮命令に従わない飲食店や入院に従わない感染者らへの罰則が盛り込まれた。前科のつく刑事罰こそ見送られたが、行政罰である20万円以下、30万円以下、50万円以下の過料が設けられたことに仏教界の関心は高く、かつてのハンセン病差別を想起させるとして、真宗大谷派は反対声明を出した。法改正の問題点は何か。「真宗大谷派九条の会」共同代表世話人で、刑事法の専門家でもある平川宗信名古屋大学名誉教授に聞いた。(編集委員 泉英明)

平川宗信(ひらかわ・むねのぶ)1944年生まれ。東京大学法学部卒。名古屋大学と中京大学の法学部教授を務め、現在は両大学の名誉教授。仏教をよりどころとする真宗念仏者として、「真宗大谷派九条の会」の共同代表世話人を務める。著書に『憲法的刑事法学の展開―仏教思想を基盤として』(有斐閣)など多数。

法改正は拙速、不適切

 《改正されたのは「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(特措法)と「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)。1月18日に開会した通常国会で審議され、2月3日に成立、10日後に施行されたことで、スピード審議を印象付けた》

──専門家から見て、今回の改正の問題点は。

 「まず非常に拙速です。安倍晋三前首相は『当面は現行法で対応する』と言い続けていました。当時、官房長官だった菅義偉首相も同様でしたが、年末に突然法改正の意向が示され、十分な議論もなく、衆議院・参議院合わせて4日ほどのスピード審議で可決した。あまりにもいきなり過ぎます。一般的に法改正で罰則を入れる時には、検討すべき要素が数多くあります。それらが全部飛ばされ、最初から罰則ありきでした。適切ではありません」

 「立法には、この法律が必要だという根拠となる『立法事実』がなければなりません。『このように感染が広がっているから、このような罰則が必要なのだ』ということが、きちんと示されていません。エビデンス(根拠)に基づいていないのです」

 「刑事罰で臨んだらどういうことが起こるのか、過料にすればどうか、過料もなく現状のままならどう推移していくのか。効果と副作用を含めて、どの対応が一番賢明であるかを考え、決めていくのが最近の刑事政策です」

憲法との整合性に問題

 《平川名誉教授は、日本国憲法との整合性や、「排除ありき」というかつての感染症対策に回帰する危険性を指摘する》

──憲法との兼ね合いはどうでしょう。
 
「改正法の内容を見ると、罰則は蔓延(まんえん)防止等重点措置と緊急事態宣言が前提になっています。これらが裁量によって決められる部分が大きい。しかも、要請命令は政令で定めます」

 「憲法が要請する通り、刑法は罪刑法定主義=用語解説=が基本です。何が犯罪となるのかを、国民に法律で示しておかねばならない。ところが、何をやったら処罰されるかが、この法律にほとんど書かれていません。政令で初めて分かるのです。『行政罰である過料ならばいいだろう』という話ではありません」

 「制裁を科す場合は合理的でなければなりません。過料に見合うだけの抑止が正確に示されない限り、合理的な制裁とはなりません。例えば営業時間の短縮は、なぜ午後8時までなら良くて、9時までならだめなのか。保健所調査への回答を拒否した場合にも過料は科されますが、守秘義務を負う弁護士や宗教者、新聞記者が、どこまで質問に答えねばならないのか。ほとんど配慮されていません」

──これまでの感染症対策の理念という観点からは、いかがですか。

 「感染症患者を危険な存在として社会から隔離排除するという考え方は、感染症患者の人権を侵害し、差別を引き起こしてきました。そうした歴史への反省が、らい予防法の廃止や感染症法の前文・本文の人権条項につながったのです。特措法にも患者の人権尊重や差別防止が書いてあります」

 「これらをきちんと考慮した上で、改正されたのでしょうか。患者差別につながる『お墨付き』を、国が与えていないか。検査や医療体制を整備する国の責任を具体的に規定するなど、患者の人権や治療を受ける権利を実質的に保障する条項を盛り込む必要があったはずです」

落ち度ではなく業縁

 《コロナ禍以降、感染者や家族、医療従事者への偏見などが表面化した。真宗念仏者として業縁=用語解説=による受け止めを説き、「穢(けが)れ」としないことを呼び掛ける》

──感染者へのバッシングが社会問題になっています。

 「バッシングする人々の感染者に対する感覚を見ていると、犯罪者や犯罪被害者への感覚との共通点を感じます。犯罪者は『社会にとって危害を及ぼす迷惑な存在で、社会から排除・抑圧すべきだ』という意識です。犯罪被害者への『落ち度があったから被害に遭ったのではないか』という偏見です。感染者のことも『危険な存在』『感染したことに落ち度があった』と見ていないでしょうか。感染自体は、いろいろな要素が重なった結果の『業縁』です」

 「犯罪とのもう一つの共通点は、穢れの問題です。日本は古代から犯罪を穢れと捉えてきました。巻き込まれた被害者も穢れた存在と見なされてしまう。そのままにしておくと神に罰を与えられるから、共同体の外に放逐しなければならない、という意識が残存している気がします。感染者のことも、穢れた存在と見ているのではないでしょうか。そう見てしまうと、家族や医療関係者にも穢れが広がります」

──解決の手立てはありますか。

 「罰則に賛同する方々は、疫病の時、強い力を持つ鬼神に祈禱(きとう)するように、国家権力に何とかしてほしいと考えているのだと思います。いわば依存であり、従属です。国家の強権に頼らず合理的な行動をとり、自分たちで危険を回避することが必要です」

 「感染しないことだけを考えると、周囲のすべてが自分に脅威を及ぼす人になってしまいます。自分だけが人間で、相手は人間ではないと思う。犯罪者を『人間じゃない』と非難する言い方を耳にしますが、誰かを『人間じゃない』と見た時には、こちらも人間性を失っています」

 「誰もが同じ人間であり、全ての命が共に生きられる世界を目指すのが本願。少なくとも感染者やその家族、医療従事者を排除しない。困っている人たちがいれば、できる範囲内で助ける。その意識で行動することによって、状況は変わるのではないでしょうか」
     ◇
【用語解説】罪刑法定主義
 どんな行為が犯罪となり、いかなる刑罰が科されるかをあらかじめ法律で定めるという原則。起源は英国のマグナ・カルタ(1215) までさかのぼるとされ、日本国憲法にも盛り込まれている。

【用語解説】業縁(ごうえん=浄土真宗)
 縁によって起こる行為などを指す。親鸞の弟子である唯円が記した『歎異抄』では、縁によっては、誰もが何をしでかすかわからない存在であることを親鸞が指摘している。

(文化時報2021年3月8日号から再構成)
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「サラナ親子教室」でお寺を身近に 地域の〝お荷物〟から大逆転

 「ゆりかごから墓場まで」という社会保障の理想を実現するには、行政だけでは難しい。ならば、地域のお寺が人の一生を支えることはできないだろうか。滋賀県東近江市の浄土宗正福寺(関正見住職)では、0歳児を連れた母親も高齢者も、くつろいだ雰囲気で同じ時間を過ごす。人間の基本を追求することが、お寺の基本なのかもしれない。(大橋学修)

サラナ親子教室の参加者とコミュニケーションを取る関住職

育児の悩み受け止める

 1月19日午前9時半。急な冷え込みで雪がちらつく中、作務衣姿の関住職が門前に立ち、車で来る親子を出迎える。「よく来たね。元気してた?」。「正福寺サラナ親子教室」の参加者だ。

 サラナ親子教室は、浄土宗総本山知恩院が教化活動の一環として取り組む子育てサロンだ。サラナは古代インドのパーリ語で安らぎを意味する。

 活動場所は本堂。この日集まった9組の親子は、教室が始まるまで自由に時間を過ごす。本堂内陣の脇間にはおもちゃが並び、まるで子供部屋のよう。法要はいつもそのままの状態で営むという。

 教室は、お勤めから始まる。関住職が唱える念仏に合わせて、子どもたちも木魚をたたく。短い法話があったかと思うと、歌やダンス、牛乳パックを使った工作、節分にちなんだ鬼退治ゲーム…と目まぐるしく活動が行われる。

 その傍らで関住職と妻の菊世さんは、親たちと子育てについて語り合う。悩みに共感したり、アドバイスを送ったり。参加者の高橋亜沙子さんは「親が肩肘張る必要がなく、リラックスできる」と話し、成田彩さんは「それぞれの子どもの思いに沿っているところがいい」と話した。

 子どもが教室を卒業した後も、8人の保護者がスタッフとしてとどまった。佐生浩子さんは「ここから離れるのが寂しくて、手伝わせてもらっている。こういうほんわかとした雰囲気は他にない」と話す。

「寺なんて負担ばかり」

 正福寺は、東近江市の旧伊野部村にある。これまで住職がいなかったり他寺院の住職が兼務したりした時期があり、地域との関係は希薄だったという。

 関住職は、奈良県御所市の眞清寺出身で、旧伊野部村とは縁もゆかりもなかったが、前住職が逝去し、後継者として入寺することになった。1995(平成7)年のことだ。

 求められてやって来たにもかかわらず、檀信徒から「寺なんて負担ばかり。メリットも何もない」という言葉が飛び出すほど、風当たりは強かった。定期法要ではお供えだけ渡し、参列しない人もいた。

 地域との関係をいかに築くかを考えているときに出会ったのが、サラナ親子教室だったという。

 妻の菊世さんは第一子を出産するまで、旧五個荘町職員として、乳幼児育成指導などの子育て支援に携わっていた。「公平な制度設計が必要とされる行政にはできない支援に、サラナ親子教室なら取り組めると感じた」と話す。

 知恩院で開かれるインストラクター養成講座に、夫婦で参加。2002年に菊世さんを教室長として「正福寺サラナ親子教室」をスタートさせた。

おもちゃが並ぶ内陣脇間

檀信徒に必要な存在

 関住職は、サラナ親子教室の開設に続いて、小中学生を対象とした寺子屋や、高齢者が交流するふれあい・いきいきサロン=用語解説=の運営にも乗り出した。いずれもサラナ親子教室の仕組みを〝応用〟したという。

 「お勤めをして、参加する世代に合わせた活動を行って、しゃべって、食べる。人間の基本なのでしょうね。それしかできないのですけど」と、関住職は笑顔で語る。

 活動を続けることで、寺に批判的な意見を持っていた人たちからも協力を得られるようになった。現在は、地域包括ケアシステム=用語解説=の拠点の一つになれないか、檀家総代と検討を始めている。

 サラナ親子教室の運営は、参加費を得てはいるものの、収支はマイナス。ただ、長い目でみれば、寺にとってプラスになると考えている。関住職は「檀信徒にとって必要な存在になれば、協力的になってもらえる。地域に貢献することが、これからの寺院の役割の一つ」と胸を張った。
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【用語解説】ふれあい・いきいきサロン
 介護予防活動などを通じて、地域の高齢者が交流する場。住み慣れた地域でいきいきと暮らせる環境づくりのため、厚生労働省が社会福祉協議会を通じ、自治会単位で開設することを推奨している。

【用語解説】地域包括ケアシステム
 誰もが住み慣れた地域で自分らしく最期まで暮らせる社会を目指し、厚生労働省が提唱している仕組み。医療機関と介護施設、自治会などが連携し、予防や生活支援を含めて一体的に高齢者を支える。団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに実現を図っている。

(文化時報2021年3月18日号から再構成)
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臨床宗教師 85%が活動自粛

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療機関や福祉施設でボランティア活動をする臨床宗教師=用語解説=のうち、85%が活動を休止していることが、谷山洋三東北大学大学院准教授(臨床死生学)らの調査で分かった。谷山准教授は、「残念ながら国内ではまだ、臨床宗教師が日常生活に欠かせない『エッセンシャルワーカー』として認められていない」と話している。(安岡遥)

講演中の谷山洋三准教授

 1月13日に龍谷大学大学院実践真宗学研究科が開いたシンポジウム「臨床宗教師研修の闇と光」で明らかにした。谷山准教授は昨年夏、山本佳世子天理医療大学講師と共同で、臨床宗教師らの現状に関するアンケートを実施。日本臨床宗教師会と日本スピリチュアルケア学会の会員104人が、昨年2月以降の活動状況について回答した。

 それによると、医療機関や福祉施設でボランティア活動を行う35人のうち、活動を継続していたのは5人。残り30人は、施設からの要請や自身の判断で活動を自粛していたことが明らかになった。

 また、職員として雇用されている臨床宗教師や医療スタッフへの業務集中を懸念する声や、オンラインや手紙などを通じ、施設外での活動を工夫して続けているとの報告も聞かれた。

 一方、米国では、ボランティアを含む病院付きの聖職者「チャプレン」が、窓越しやオンラインで患者のケアに当たり、医療スタッフらの悩みに耳を傾けているという。谷山准教授は「チャプレンの必要性を社会全体が認めている米国に対し、日本ではまだまだ認識が進んでいない」と話している。

 コロナ禍の影響は、臨床宗教師の養成にも波及。龍谷大学でも、予定していた実習の大半が中止やオンラインでの開催となった。本年度の実習生は昨年秋になってようやく、僧侶が常駐する浄土真宗本願寺派の独立型緩和ケア病棟「あそかビハーラ病院」(京都府城陽市)で、初めての対面実習が実現した。

 こうした状況を踏まえ、谷山准教授は、宗教的ケアの効果を科学的に実証することと、各教団の教義に基づく臨床宗教師の位置付けを確立することを、今後の課題に据える。「少しずつ教団内に理解者を増やし、活動の下支えにつなげたい」と展望を語った。
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【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は21年3月現在で203人。

(文化時報2021年2月8日号から再構成)
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