近世京都寺社の文化史 村上紀夫 著〈法藏館〉

近世京都寺社の文化史

村上紀夫 著〈法藏館〉

 

京都には小さな寺院や神社があまたある。本書は、経済基盤の脆弱な中小規模の寺社が自らの存続をかけてとった多様な〝戦略〞の実態と、その背後に隠された京都の宗教的需要を読み取り、近世都市が彼岸と此岸の両面で抱えた諸問題をあぶり出す。

第Ⅰ部「都市の信仰と神社」、第Ⅱ部「寺院と葬送・墓地」でひもとかれる16〜19世紀の歴史からは、近世の都市における課題や関心が意外にも現代社会と共通している。例えば、菅原道真の没後800年といった偉人のメモリアルイヤーにおける一種のムーブメントの発生や、不特定多数の人々が出入りする近世都市において、災害時にも平時にも日常的に発生していた〝無縁死〞などは、現代にも通じる問題の代表例といえるだろう。近世寺社の生き残り戦略も、こうした都市における関心・課題を敏感に察知し、それらに対応すべく実施されたものであることがわかる。

従来の研究とは異なる視座から近世京都の新たな側面に光を当て、都市固有の民俗・信仰へ、よりリアルに迫った。

定価8000円。法藏館(☎075―343―5656)。