瞑想・慈悲をケアに GRACE研究会が年次大会

 終末期のがん患者と向き合う医療者らが、仏教瞑想で心のトレーニングを積むGRACE(グレイス)について学ぶ「日本GRACE研究会」の第2回年次大会が7日、大阪市北区の関西大学梅田キャンパスで行われた。「GRACEの基本に立ち返り、コンパッションに触れる。」をテーマに、看護師や僧侶ら109人が参加し、慈悲の精神に基づいたケアをするためのグループワークに取り組んだ。

 GRACEは、英語の頭文字になっており、よりよいケアにつなげるための5つのステップを示している。米国の医療人類学者兼僧侶、ジョアン・ハリファックス老師が、医療者向けのプログラムとして2013年に開発した。
 
 この日の年次大会では、日本でGRACEの普及に取り組む村川治彦関西大学教授が講演。苦しみを和らげたい、少しでも取り除きたいという仏教的な「コンパッション」(慈悲、思いやり)がGRACEの重要な要素になっていると指摘した上で、「各ステップを繰り返し行うことで習慣にしていけば、よりマインドフルな状態でケアができる」と語った。
 
 続いて曹洞宗国際センター元所長で僧侶の藤田一照氏が、仏教瞑想に基づいた呼吸法を指導。「ストレスのかかるやりとりや状況の最中でも、いったん立ち止まって自分の注意を集めることが大切」と述べた。


 
 日蓮宗の中島海解法光寺住職(千葉県市原市)は「理不尽なことに向き合うには、相手にとっても自分にとっても、心を整えることが大切。GRACEでは、後悔や不安が駆け巡るのをひとまず止めることができると思う」と話していた。

仏教の本質 医療に根付くか

 日本GRACE研究会は、セルフケアに関心のある緩和ケア医や看護師、僧侶らが世話人となって昨年12月に設立された。代表の恒藤暁京都大学大学院教授や、浄土真宗本願寺派が手がける緩和ケア病棟「あそかビハーラ病院」の顧問を務める高宮有介昭和大学教授など、高名な医師たちが名を連ねている。
 
 背景にあるのが、医療者だけのケアには限界があるという発想だ。
 
 医療現場では、患者の死に直面する看護師らを中心に、十分にケアができなかったという無力感などで、燃え尽き症候群(バーンアウト)になる人が多いとされる。また、医師の長時間労働が問題となる中、仕事内容や職場環境の改善とともに、自分自身をケアする「セルフケア」の重要性も指摘されている。
 
 GRACEを開発したジョアン・ハリファックス老師は、仏教瞑想を基本としつつ、ヨガや分かち合いのグループワークなどを取り入れた。ケアを行う側が死とどう向き合い、いかに自分のこととして考えるかを探求す るためだった。
 
 そうして得られた、よりよいケアを提供するための成果を、医療者に納得して受け入れてもらうために、GRACEは神経科学や心理学のエビデンス(科学的根拠)を用いて理論武装している。
 
 これについて、曹洞僧侶の藤田一照氏は「経典を引く代わりに、仏教で言う方便として、西洋科学の知見を持ってきている」と指摘。「これまでの仏教とは似ても似つかないかもしれないが、GRACEには仏教の本質がある。医療現場に合うように、仏教のテンプレートを整えている」と説明する。

課題は日本語訳

 懸念もある。仏教色を前面に打ち出さないことが、かえって本質を伝わりにくくしていないか、という点だ。

 GRACEが重視している「コンパッション」には通常、慈悲や思いやりといった日本語訳が充てられる。苦悩や悲嘆に寄り添い、何が相手の役に立つかを感じる能力のことを指し、単なる共感ではないという。現状は適 切な訳語がないとして、あえて英語のままカタカナ表記で使われている。
 
 年次大会の参加者からはコンパッションについて、「さまざまな領域にまたがる面白い概念で、新鮮に感じる」という感想があった一方、「どう使うのかわからない」という戸惑いの声も上がった。
 
 ハリファックス老師は 昨年12月の第1回年次大会で来日した際、「死と向き合う人のための活動が、日本で展開されることに喜びを感じる」と話していた。医療現場に仏教の本質が真に根付くかどうかが注目される。(主筆 小野木康雄)

(購読のお申し込みは0800-600-2668またはお問い合わせフォーム