子ども食堂 お寺が参入するワケ

 真宗大谷派が2020年1月、京都市下京区の本山・東本願寺に子ども食堂を開設した。もともと子ども食堂は、地域住民らが子どもたちに無料または低額で食事を提供する取り組みで、全国3700カ所以上で行われている。なぜお寺が乗り出すのか。大谷派が実施してきた歴史をみると、地域貢献という一言では片付けられないさまざまな社会問題がうかがえる。

東本願寺で行われた「ひがしほんがんじ子ども食堂」=2020年1月

子どもの貧困だけではない

 真宗大谷派と子ども食堂の関係は2015年にさかのぼる。

 きっかけは、フリーアナウンサーの金子よしえさんが、子どもの貧困の解消や、家族が不在のため1人で食事をとる「孤食」を防ぎたいと願い、開設を思い立ったこと。母親の葬儀で縁のあった「真宗会館」(東京都練馬区)に場所の提供を求めた。寺院発のアイデアではなかったというわけだ。

 真宗会館は快諾し、15年4月に「ねりまこども食堂」がスタート。これに触発されたのが、東京都世田谷区の存明寺(酒井義一住職)だった。

 存明寺は、育児に携わる母親同士の情報交換などを目的とした子育てサロンを、12年10月に立ち上げていた。元保育士の酒井浩美坊守が、子どもが成長しても切れ目のない支援をしようと、子ども食堂に着目。夫妻で「ねりまこども食堂」を視察し、サロンの母親たちとも協力して、15年9月に「ぞんみょうじこども食堂」をオープンさせた。

 参加者が増え過ぎたため開催日時を告知できなくなるほどの盛況ぶりだという。

学年を超えた交流の場に

 新潟県上越市の最賢寺は、市内初の子ども食堂を16年7月に始めた。境内にある樹齢300年以上の大イチョウにちなんで「いちょう食堂」と名付け、月1回行う。
 
 同寺の金子光洋さんは「子ども食堂を通じてお寺に集い、学年を超えて遊んでもらえれば、学校生活もより深く充実したものになると考えた」と話す。遊び相手となる学生スタッフが通う上越教育大学や新潟県立看護大学では、子ども食堂サークルも立ち上がった。
 
 メニューは、地域住民を中心とした調理スタッフが考え、大人80~100人分を用意。門徒や地域から寄進された米や野菜を使い、調味料は社会福祉協議会のフードバンクから提供を受けている。共同募金の助成金も活用し、高校生までは無料で食事を提供している。

 金子さんは「上越市が教育支援に力を入れていることもあり、行政からもバックアップをもらって助かっている」と話す。

やるからには…仏教色前面に

 名古屋屋別院(東別院、名古屋市中区)では、藤井正芳輪番の「いつでも子どもが集えるお寺を目指す」との願いのもと、子どもを対象とした事業に力を入れており、18年10月から「東別院こどもカフェ」を年4回実施している。

 子ども食堂には 貧困家庭の救済という役割もあるが、「食について考えながら、大人数で食事を楽しむ」というイメージを大切にする意味から、あえて「カフェ」という名称にした。
 
 保護者を含めて毎回50~ 60人が参加。お勤めと法話の後で食事をするのも特色だ。
 
 東別院社会事業部の藤井貴顕書記は「お寺でやるからには、仏教に触れてほしい」と願っている。宗教行事を含むと、地元のネットワークに加盟できないという弱みが生じるというが、それでも「仏教色を前面に出した別院独自の子ども食堂の形を、これからも続けていきたい」と語った。

お寺のハードを活用する

 本山・東本願寺の子ども食堂は、それに先駆けて始まっていた浄土真宗本願寺派の本山・西本願寺の「みんなの笑顔食堂」を参考にした。実際に職員が視察したという。

 参加費は子ども100円、大人400円で、50食限定。宗派が年間契約している委託業者が、月1回程度のペースで食事を提供していく。1月に行われたときは子ども11人を含む近隣住民19人が、カレーライスを味わって楽しいひと時を過ごした。

 大谷派の玉樹崇研修部次長は「活動で蓄積した知識を、今後は宗派の寺院に伝えていければとも考えている」と話す。一方で「子ども食堂を行っている一般寺院の方々からも、さまざまな提言やアイデアをいただきたい」と話す。
 
 子ども食堂の会場となっている同朋会館は、全国の門徒や住職、寺族の研修の場として使われる施設。さまざまな交流を深めるには、うってつけと言える。お寺が子ども食堂に乗り出すのは、ハードを有効活用したいという願いもあるようだ。

(文化時報2020年1月18日号から再構成)
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