日航機事故の遺族、僧侶に研修

 1985年8月12日の日航機墜落事故で妻を亡くした工藤康浩さん(59)が、大阪の浄土宗僧侶らを前に講演した。浄土宗大阪教区が行った「グリーフ(悲嘆)研修」の講師として登壇した。悲嘆を抱える人に寄り添うには、第三者と遺族の中間に立つ「2・5人称」の視点が大切だと説き、悲嘆が生きる力に転換する様子を見守ることが必要だと訴えた。

僧侶を前に講演する日航機事故遺族の工藤さん

 工藤さんは結婚後半年で妻を亡くした後、現在の妻である理佳子さんと再婚した。「彼女は、遺族である僕に出会ってしまった。自分自身の夢もあっただろうが、全てを閉ざして僕に寄り添うことを決めてくれたのだと思う」と語る。
 
 事故後の周囲の人々との関わりについては「妙に同情する人がいたが、悲しみの中にいると、それさえも煩わしく感じられた」と振り返り、「時間がたてば忘れるという人もいる。それでも、悲しみは一生残る。悲しみを消すなどということは、あってはならないと思う」と、寄り添いのあり方に言及した。
 
 事故を起こした日航と関わる中で、大切だと感じるようになったのが「2・5人称」の視点。「1人称は被害者、2人称は遺族、3人称は第三者。日航とは互いに2・5人称の立場になったことで、同じ方向を向くことができた」と振り返り、辛苦に耐える人との接し方においても、同様の視点が必要だと述べた。
 
 さらに、事故の風化をどのように見守るのかが第三者には問われているとの見方も示した。「風化は元の姿に戻ろうとすること。当事者は、ゆっくりと変化し、元の生活に戻っていく。風化を止めることは、悲惨な状況をとどめるということになる」と指摘。「変化を理解してもらうことが非常に大事。復興したり成長したりと、悲しみを耐えようとすることに、どうやって寄り添っていけるか。変化に応じて見守ってほしい」と語り掛けた。
 
 その上で、「悲しみに明け暮れるのでなく、悲嘆を別の形に変えていく作業が必要。生きるエネルギーに転換していくことが大切だと感じる」と胸の内を明かした。
 
 受講した僧侶らは「相手の立場になって話を聞くといわれているが、3人称でも2人称でもないと気付かされた」「変化を見つめることが大切だと思った」と自らの姿勢を問い直していた。
 
 工藤さんに寄り添い続けた理佳子さんは「悲嘆を抱える人は、寄り添う人がそばにいることに気付けないこともある。それでも寄り添い続けることが必要」と話している。

 グリーフ研修は1月24日に大阪教務所で行われた。

(文化時報2020年1月29日号から再構成)
(購読のお申し込みは0800-600-2668またはお問い合わせフォーム