医療従事者「支えは仏教」

 医療・介護関係の多職種連携を目指すNPO法人「Life is Beautiful」(山下和典理事長)のセミナー「いのちの学び2」が、京都府長岡京市の中央生涯学習センターで開かれ、華厳宗僧侶で医師の川島実氏と、高野山真言宗僧侶で看護師の玉置妙憂氏が「死にゆく人のこころに寄りそう」をテーマに対談した。

 同法人は2018年12月、医師や歯科医師、栄養士、作業療法士らがメンバーとなって設立。障害や病気を持つ人とその家族が「生活者」として生きられるよう、月1回のセミナーなどを通じて学びを深めている。対談は20年2月11日に行われた。

 

対談する僧侶で医師の川島実氏(左)と僧侶で看護師の玉置妙憂氏

手を合わせて送る―川島実氏

 川島氏は京都大学医学部在学中にプロボクサーとなり、自給自足を目指して和歌山県の山奥で暮らすうち、地域医療に関心を持つようになった。現在は在宅医療の専門医として活動している。

 救急病院で勤務していた頃、担当していた患者を亡くして心が弱っていたことがあり、コピー用紙の裏にボールペンで般若心経を書き写していたという。母校の東大寺学園高校の先輩に当たる僧侶に誘われ、得度。「手を合わせれば患者や家族に喜ばれるが、あくまで自分を守るためにやっていること」と語った。

 また、霊安室で、亡くなった患者の家族に「われわれの力が及びませんでした」と頭を下げることに違和感を覚えるようになり、以後は手を合わせて送り出すようになったと明かした。

 東日本大震災の救援で宮城県気仙沼市に入り、話を聞いて薬を出すことしかできず「ごめんなさい」と思いながら診察していたのに、患者から「ありがとう」と言われたことに感動し、志願して現地の公立病院に転職したエピソードも紹介。

 父を自宅で看取った経験から、在宅医療の現場では患者が亡くなったとき、最期まで共に過ごせたこととつらい介護から解放されたことに対して、「良かったですね」と言うようにしていることを明かした。

医療が生む苦しみ―玉置妙憂氏

 玉置氏は看護師免許を取得後、夫をがんで亡くした。延命治療を望まなかった夫を自宅で看取った後、出家を決意。高野山で約1年間修行した。

 現在は看護師として勤務する傍ら、訪問スピリチュアルケアを手掛ける「大慈学苑」(東京都江戸川区)の代表として活動している。玉置氏も、仏教について「自分自身の支えであり、人の支えになるとは決して思っていない。だからこそ患者や家族に布教はしない」と語った。

 また、現代医学は延命至上主義をもたらし、生と死の境目をあいまいにしたと指摘。寿命や天寿という言葉で示されるように「後は仏や神に任せる」という死がなくなったと言い、「現代医学は、たかが人間である私たちに、延命措置をするかどうかを選べと言っている。そうして新たな苦しみを作り出した」と強調した。

 さらに、在宅で看取った夫の延命治療をしなかった経験などを引き合いに、「選択肢があれば必ず迷い、どちらを選んでも後悔する」と語った。

 こうしたスピリチュアルペインに対処している医療・介護従事者、家族らは、仏教でいう「利他行」を実践している半面、その前提には「自利」が必要だと指摘。「最初に自分のコップを水で満たすことが大切」と説いた。

(文化時報2020年2月19日号から再構成)
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