バレンシア禅堂訪問記「僧侶の初心に帰れた」

 曹洞宗宗議会元議長の砂越隆侃(すなこし・りゅうかん)泉龍寺住職(72)=相模原市南区=は今年1月17日、スペイン東部バレンシアにある和光禅寺(Templo ZenLuz Serena)を初めて訪れた。欧州の曹洞宗寺院の一つで、1989年に堂頭のヴィラルバ独照氏(国際布教師)が創建した。熱心に修行する僧侶らの姿に心を打たれたという砂越住職は「僧侶の初心に帰れた」と話す。

(Templo ZenLuz Serenaのフェイスブックから)

フランス拠点に

 欧州における曹洞宗の国際布教は、67年に弟子丸泰仙師が渡欧したことに始まる。フランスを拠点に坐禅中心の布教活動が行われ、各地に広まった。

 日本大学芸術学部出身の砂越住職は、恩師だった長塚隆二教授(後のリヨン大学客員教授)の紹介で、20代前半の頃に1年ほど仏北西部ブルターニュで過ごした。そのとき、パリ・モンパルナスの禅センターに弟子丸師を訪ねたことがあったが、運悪く、弟子丸師は大本山永平寺へ赴いていて、会うことはかなわなかった。

 その後、砂越住職は僧侶となり、2007年の曹洞宗ヨーロッパ国際布教40周年では、弟子丸師の活動拠点だった禅道尼苑(仏東部ブロア市近郊)での法要に随喜。曹洞宗出版部長時代には峨山禅師大遠忌予修法要の導師を務め、17年の開教50周年にも赴くなど、節目の法要には欠かさず参列している。

 今回は、寺院名鑑でスペインにも曹洞宗海外寺院があることを知り、「ぜひ参拝したい」と思い立って実現した。

スペインの大自然

 地中海に面したバレンシアは、1月とは思えないほどの陽光に輝いていた。空港に到着すると、2人の修行僧が砂越住職の名前を記したボードを掲げ、迎えに来てくれていた。

 車で約1時間。ブドウ畑を通り過ぎ、国定公園に向かう途中の丘に、和光禅寺はあった。山岳地のため意外に肌寒く、「修行道場に入山したことを実感した」という。

 風光明媚な33㌶の敷地に、本尊をまつる坐禅堂や食堂、修行僧や参禅者の宿舎がそろう。到着すると砂越住職は、バンガローを立派にしたような部屋に通された。そこで改良衣に着替え、坐禅堂に赴き、本尊に参拝した。
 
 堂頭の独照氏は、あいにくイタリアの禅堂の摂心に赴いていて不在だった。独照氏は若い頃には日本にいて、両本山にも瑞世したという。「ヨーロッパとスペインにおける禅について、砂越老師とゆっくりお話をしたかったのですが、残念です。またぜひお越しいただき、お目にかかれますことを楽しみにしております」とのコメントを残していた。

 空港から引き続き、2人の修行僧が山内を案内してくれた。禅堂では男女が共に修行し、男女別の宿泊施設があった。砂越住職が感銘を受けたのは、大自然の中、輪になって瞑想できる施設だった。山内には枯山水の庭も作られていた。

(Templo ZenLuz Serenaのフェイスブックから)

充実した修行生活

 食事の前には全山に響くように雲版が鳴らされ、山の中で作務をしていた人たちも食堂に集まった。6人ほどの修行僧と共にスペイン語で五観の偈を唱えて食事した。

 「いつもは応量器で食事している彼らも、私が来ているからと、特別にパエリアとバレンシアオレンジで歓迎してくれた。諸堂参拝や、修行僧の方々とも交流したが、食事の作法や、行持が綿密であることに感動した」

 和光禅寺では、年間を通して瞑想のリトリートや仏教研究のセミナー、ワークショップなど、さまざまな活動が行われており、摂心の期間には多くの参禅者が集う。約3時間の訪問だったが、修行僧の姿に砂越住職は新鮮さを覚えたという。

 「言葉は悪いが、私たち日本の僧侶は、本山や専門僧堂に僧侶としてのライセンスを取りに行っている。しかし、彼らは自らが進んで修行を楽しみ、三昧しているとも言える充実した時間を送っている」

 次の渡航先をスイスに決めているという砂越住職は、現地の禅堂を訪問することで、日本の曹洞禅が現地の人々にいかに溶け込んでいるか実感し、勇気をもらいたいと考えている。

 砂越住職は言う。「日本では見ることの少なくなった、生き生きとした修行生活を目の当たりにし、私自身が僧侶としての初心に帰れた。日本の宗侶や寺族の方々も、せっかく欧州に行くのなら、時間を作って現地の禅堂を参拝してみてはどうだろうか。きっと歓迎してくれるはずだ」

(文化時報2020年3月14日号から再構成)
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