オウム25年②信者も被害者だった 楠山泰道氏(日蓮宗)

※2020年3月に行ったインタビュー連載を再構成しました。

 日蓮宗大明寺(神奈川県横須賀市)の楠山泰道住職は、約30年前からオウム真理教の脱会者支援に取り組んできた。地下鉄サリン事件と教団への強制捜査があった1995年には、他宗教の聖職者や医師、弁護士らと共に「日本脱カルト協会」を設立。「サリン事件で加害者となった信者も、マインドコントロールをかけられた〝被害者〟であると受け止めることが必要」と話す。

楠山泰道(くすやま・たいどう)1947年生まれ。立正大学仏教学部仏教学科卒。日蓮宗大明寺住職、日本脱カルト協会顧問。深愛幼稚園園長、宗教法人大明寺「青少年こころの相談室」室長。著書に『法華経の輝き―混迷の時代を照らす真実の教え』(大法輪閣、2014年)、『カルトから家族を守る』(毎日新聞社、00年)などがある。

善良さが社会を敵視した

 《1995年3月20日に起きた地下鉄サリン事件は死者13人、負傷者6千人以上を出し、オウム真理教の幹部や信者が多数逮捕された》

――事件について、どのような考えを持っていますか。

 「事件には2種類の被害者がいる。一つはサリンをまかれたことで突然亡くなり、後遺症を負った何の罪もない人たち。もう一つは、実行した信者とその家族だ。彼らもまた、マインドコントロールをかけられたことによって、健やかな人生や青春を奪われた被害者に違いない」

 「では加害者は誰なのかと言えば、当時の社会背景を作った人々。すなわちこの問題について何も考えず、興味も持たなかった大人たちではないだろうか」

 《楠山氏は地下鉄サリン事件の前から、オウム真理教をはじめカルト視される教団からの脱会者支援を行っていた》

――脱会者支援を始めたきっかけは、何だったのですか。

 「オウムの脱会者支援を始めたのは1990年。当時、私は教員をしており、青少年の非行問題に取り組んでいた。その中に入信した子がいて、脱会させたのが活動の始まりだった」

 「カルト宗教の情報を共有する勉強会を毎月重ねるうち、入信してしまった子を取り返したいという親御さんが、どこにも相談できずに集まってきた。これまで約200人と会い、40人ぐらいの脱会に関わった」

――カルトの一番の問題は何でしょうか。

 「入信するとお金を奪われるだけでなく、人生の大事な時間と人間関係を壊される。家族や友人、社会での居場所が失われてしまう」

 「入信するのはまっすぐで良い人が多く、教団の教えにより世の中を救おう、善いことをしようと思っている。だからこそ、解決しがたい。脱会させようとして『間違っているよ』と指摘すると、『なんで邪魔するんだ』と敵視される」

――攻撃性を強めていくわけですね。

 「カルトの特徴は、カルト的理想郷をつくろうとする点にある。例えばオウム真理教がオウム王国をつくろうとしたように、信者を出家させて家族と断絶させ、マインドコントロールしていく。すると社会から攻撃されていると信じ切って、自分たちを守ろうと団結し、執念深く行動するようになる」

宗教テロを予防しない国

 《公安調査庁によると、オウム真理教の後継団体は、主流派の「Aleph(アレフ)」が2019年に約100人の信者を獲得。死刑執行後も、麻原彰晃(本名・松本智津夫)元死刑囚への絶対的帰依を示している。「山田らの集団」、「ひかりの輪」も活動を続けている》

――アレフの活動をどう見ていますか。

 「札幌市白石区に大きな拠点がある。オウムを知らない若い信者たちはみんな『事件は政府の陰謀だ』『マスコミのでっち上げだ』と信じている。ヨガ教室から入信させ、出家主義をとっている」

――現状ではどんな対策が有効でしょうか。

 「日本は多くのカルト教団が存在してきたにもかかわらず、カルト問題については何ら方法も手段も持っていない。オウム事件ですら、再発防止策を講じることなく闇に葬ってしまった」

 「英国やドイツなど海外メディアから取材を受けると、彼らの問題意識は『宗教テロ』の予防だとわかる。米国でもオウム事件を参考に対策を立てたと言われている。日本はおそらく誰も予防のことなど考えていない」

――カルトの定義が難しいという側面もあります。

 「カルトは本来、熱狂的な集団と呼ばれるもの。問題は、常識を超えて反社会的な行動を取る破壊的なカルトだ」

 「もっとも、私は宗教者として『宗教違反』をする団体が問題だと考えている。私の場合は仏教だが、社会的常識を逸脱した行為や人権を無視する行為は『宗教違反』と認定できる。『あなたたちの教えは宗教違反です』とはっきり言える教団や宗教者が求められているのではないか。社会問題になったときに、信教の自由を保ちながらも、『宗教違反』や破壊的カルトだと見極める仕組みがなければならない」

死刑に奪われた機会

 《日本脱カルト協会は2018年3月15日、麻原元死刑囚を除く死刑囚12人について、死刑を執行せず、無期懲役に減刑する恩赦を検討するよう求める要請書を、法相に提出した。しかし7月6日に麻原元死刑囚を含む7人、同26日に6人の死刑が執行された》

――死刑執行についてはどうお考えですか。

 「オウム事件は『宗教テロ』だった。あれだけ優秀な人たちがなぜ入信し、問題を起こしたのか。人を殺し、命が失われる修行などあってはならない。それなのになぜ、彼らは一生懸命〝修行〞に励んだのか。私はマインドコントロールという言葉を頼りにしたが、今でも半分は納得できない」

 「だが、優秀な人たちがマインドコントロールを受けてテロリストになる過程について、知見が得られるはずの機会は、死刑執行によって奪われた。彼らが生きてさえいれば、マインドコントロールが解けた段階でわかることがあった」

 「信者と教祖が一緒に死刑になるのは正しいのか。麻原元死刑囚が救ってくれると信じた元死刑囚もいたが、麻原元死刑囚は結局、何もできなかった。アレフなどの残された信者たちに向かって、当時の幹部が証言し、解明できることはあった。何もできなくなった悔しさが残る」

――宗教の役割をどう考えますか。

 「伝統仏教の役割は、心穏やかに健康でいることが生きる価値だ、と教えること。これをカルトが教えるから問題になる。泣いて来た人を笑顔で帰してあげる。苦しい人を救ってあげる。そうしたことを、お寺は仕事にしなければならない。宗教者の目的は、救うことなのだから」
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 楠山泰道(くすやま・たいどう)1947年生まれ。立正大学仏教学部仏教学科卒。日蓮宗大明寺住職、日本脱カルト協会顧問。深愛幼稚園園長、宗教法人大明寺「青少年こころの相談室」室長。著書に『法華経の輝き―混迷の時代を照らす真実の教え』(大法輪閣、2014年)、『カルトから家族を守る』(毎日新聞社、00年)などがある。

(文化時報2020年3月11日号から再構成)
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