地域包括、終活で充実 カフェで「官仏連携」

 終活をキーワードに地域包括ケアシステム=用語解説=を充実させようという取り組みが、神奈川県厚木市で進んでいる。終活カウンセラーと公的機関、お寺が協力し、「お寺『終活カフェ』」を開催。「心、体、先の不安をケアできる交流の場」と位置付け、1年間で約30人がメンバー登録した。地域包括ケアシステムにお寺を活用する事例として注目を集めそうだ。

曹洞宗長谷寺で開かれた「お寺『終活カフェ』」=2019年10月、神奈川県厚木市

営業・宗教勧誘は行わない

 厚木市の住宅街にある曹洞宗長谷寺(ちょうこくじ)。約千年の歴史がありながら焼失を繰り返し、1993年に加藤英宗住職(51)が再建した。檀家を持たない一方で、ヨガや詩吟、坐禅会などの〝寺子屋〟に人が集まる。

 ここを会場に開く「お寺『終活カフェ』」で中心的な役割を果たしているのが、終活カウンセラー上級の資格を持つ「神奈川葬祭」企画営業部次長、髙橋良彦さん(56)。仕事で付き合いのあった長谷寺と厚木市南毛利地域包括支援センターをつないだ。

 カフェでは、営業活動や宗教勧誘を一切行わない。昨年6月に「地域の相談窓口『地域包括支援センター』ってなに?」をテーマに第1回を開催。以降は老人ホームの選び方やエンディングノートの活用法など、参加者から提案のあった講演会を開いてきた。

 加藤住職の法話や後半に行うカフェタイムも好評で、参加者は終活にまつわるさまざまな悩みや苦労話を語り合う。

 髙橋さんは「死生観にたけた宗教者が参加すれば、きちんとした地域包括ケアシステムが構築できる」と話している。

弔いを宗教に任せる

 髙橋さんは「終活に関する相談は、『死んだら自分はどうなるのか』と死生観に踏み込んでくる。医療・介護の専門職では対処が難しい」と話し、宗教者の役割に期待する。

 「お寺『終活カフェ』」は、お寺で開く流れが自然にできた。もともとは、市内の主婦が会員制交流サイト「フェイスブック」で始めた「老後を真剣に考える会」が出発点。ファミリーレストランで情報交換する内輪の勉強会で、そこに髙橋さんと長谷寺の関係者も参加していた。

 髙橋さんは「葬儀で後悔する人をなくしたい」との思いから、市内の地域包括支援センターと協力し、2016年から終活講座や相談会を行ってきた。「生き方や人生に関する悩みは、お寺が相談窓口になればいいのではないか」と話す。

カフェタイムでは、終活関連の話をざっくばらんに語り合う=2019年7月、神奈川県厚木市の曹洞宗長谷寺

 一方、地域包括支援センターは、住民から介護に関するよろず相談を受けており、市町村が設置主体となっている。公的機関として、宗教法人との協働には難しい面もあるが、お寺は安心できる会場で僧侶は心のケアの専門家、と位置付けている。

 厚木市南毛利地域包括支援センターの職員で保健師の鈴木瑞穂さん(37)は「お寺で話をしたい、聞きたいという需要は少なからずある。必要な方に支援が届くよう、カフェを通じて情報発信したい」と語る。

 お寺にとっても、メリットは大きい。長谷寺には、「お寺『終活カフェ』」への参加をきっかけに、ふらりと訪れる人や坐禅会に関心を持つ人が増えた。加藤住職は「地域に開かれていて、いろいろな専門家に相談できる環境を作るのが、本来のお寺の役割」と強調する。

 地域包括ケアシステムは高齢者の健康を扱うため、医療・介護を中心に構築されている。生前のケアは得意だが、死後の弔いまで目配りできているケースは少ない。弔いを宗教に任せれば、切れ目のない看取りによって、最期まで自分らしく生きるという地域包括ケアシステムの理念が達成される。

 新型コロナウイルスの影響で、カフェの開催は今年4月に予定されていた第7回が延期されたまま中断している。再開し「厚木モデル」として普及することが期待される。(主筆 小野木康雄)
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【用語解説】地域包括ケアシステム
誰もが住み慣れた地域で自分らしく最期まで暮らせる社会を目指し、厚生労働省が提唱している仕組み。医療機関と介護施設、自治会などが連携し、予防や生活支援を含めて一体的に高齢者を支える。団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに実現を図っている。

(文化時報2020年6月10日号から再構成)
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