「自他の縁、見つめ直せ」コロナ後の宗教界に提言

 国際宗教同志会(IRF、芳村正徳会長)は3日、東京工業大学の弓山達也教授(宗教学)を講師に招き、講演会「コロナ禍中/後の日本の宗教はどうなる」を金光教泉尾教会(大阪市大正区)で開催した。僧侶や神職ら17人が出席し、コロナ後の社会で宗教者が果たすべき役割について語り合った。

弓山達也教授

 【講演・質疑応答のポイント】
・過去の疫病で人々は宗教にすがった
・オンラインで宗教が身近になった
・宗教界独自の「新しい生活様式」が必要
・コロナ後の社会動向を察知せよ

 弓山教授は新興宗教ブームの1980年代に大学へ進学し、自身も複数の教団に傾倒した経験がある。人を引き付ける宗教の力に関心を持ち、大学院では宗教現象の研究に没頭。現在は、ボランティアや社会貢献など「宗教の社会的な力」について研究している。

 冒頭で弓山教授は、スペイン風邪が流行した大正期に大本や太霊道=用語解説=が台頭したことなどを例に、「疫病によって社会不安が広がると、人々は宗教にすがり、霊的な導きを求める傾向がある」と分析した。

 さらに、終戦直後の50年代に提唱された新生活運動=用語解説=を挙げ、「冠婚葬祭の縮小など、生活の簡略化・合理化を求める運動が、国難のたびに政府主導で行われてきた」と指摘。コロナ禍を受けた「新しい生活様式」の提唱も、これと同質の動きであると述べた。

 「人と人とが密接に関わり合うことは、宗教の本質でもある。それを排除する動きは、宗教界にとってひとごとではない」と強調。「お上の指示を受け入れるだけでなく、独自の『新しい生活様式』を発信していく必要がある」と提言した。

 弓山教授は東日本大震災による被災者のライフスタイルや価値観の変化に着目している。被災地で目にしたのは、独自の追悼行事や祭礼を生み出し、誰に言われるでもなく「菩薩のように」隣人を支える市民の姿だったという。

 コロナ後の社会にも同様に「市民主体の新しい生き方、物事の感じ方が生まれてくる」と予測し、「宗教者は、そうした社会の動きを敏感に察知すべきだ」と語った。具体的には、接触や移動の制約から「障害を抱えた人が日常的に味わう不自由さ」に目を向け、葬儀や法要の縮小から「人の生死」「死者への思慕」について考えるべきだと指摘。「自他を結ぶ縁の在り方を考え、発信することが、宗教者に求められる〝霊的な力〟ではないか」と締めくくった。

一人の人間として社会と向き合う

 講演に対し、宗教者からは率直な質問が寄せられた。高野山真言宗観音院(堺市南区)の大西龍心住職は、東大寺が呼び掛けた「正午の祈り」に参加。防犯を理由に閉じていた自坊の門を「祈り」の時間帯に合わせて開けるようにしたところ、目に見えて参拝者が増加したという。

講演会はソーシャルディスタンスを確保して行われた

 その経験から「不安なときこそ民衆は宗教を求める」との弓山教授の見解に共感を示しつつ、「宗教に対し、一般の方々は具体的に何を求めているのか」と問うた。

 弓山教授は「人々が宗教施設を訪れたい、宗教者の話を聞いてみたいという思いは常にある」と回答。一方で「拝観時間の制限によってお寺に来られない人や、僧侶に対して心理的なハードルの高さを感じる人も多い」と指摘した。

 そうしたハードルが、テレビ会議システム「Zoom(ズーム)」などのオンラインツールによって解消されつつあるという。ネット法要に多くの参拝者が集まった事例を挙げ「時間や距離に関係なく、宗教者と一対一で語り合えることは、一般人にとって大きな魅力」と語った。

 一方、生島神社(兵庫県尼崎市)の上村宜道宮司は、「オンラインの導入に抵抗を感じる宗教者も多い」と指摘した。自身の周りでも、オンライン祈禱を提案する声が聞かれたが、「祈りの場でのネットの利用はよくないことだという見解が、神社界の暗黙の了解となっている」と話す。その上で「参拝者の立場で、ネットを介した信仰をどう考えるか」と見解を問うた。

 弓山教授は「オンラインでできること、できないことについて、自分の考えを参拝者に説明するチャンスではないか」と回答。オンラインツールの普及により、宗教者が「一人の人間として一般人と向き合うことができるようになった」とし、「伝統にとらわれず自分の言葉で説明すれば、参拝者からも優れた理解が得られるはずだ」と話した。(安岡遥)

【用語解説】太霊道(たいれいどう)
田中守平(1884~1928)が創始した霊術教団。修行によって読心術などの霊能の開花を目指す。大正~昭和初期にかけて大流行したが、田中の死をきっかけに消滅した。
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【用語解説】新生活運動(しんせいかつうんどう)
第2次世界大戦後の生活水準の向上を目的に、鳩山一郎内閣が1955年に提唱した運動。冠婚葬祭の簡略化、封建的因習の排除などが主な内容。

(文化時報2020年6月13日号から再構成)
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