居場所づくりに宗教者協力 西成高校「となりカフェ」

 大阪府立西成高校(大阪市西成区)で生徒らの居場所となっている「となりカフェ」の運営に、金光教大阪センター(若林正信所長)が協力している。困難を抱える生徒らに、家庭でも学校でもない「サードプレイス(第三の場所)」を提供し、ドロップアウトを防ごうという取り組み。金光教の宗教者らが神前のおさがりとして食品を提供し、傾聴に当たっている。(主筆 小野木康雄)

西成高校の「となりカフェ」で、生徒の飲み物を作る金光教教師ら

 7月9日の昼休み。チャイムが鳴るとすぐ、男子生徒が駆け込んできた。「俺、きょう昼飯ないねん」。炊きたてのご飯をよそい、自分でおにぎりを作り始めた。

 となりカフェは校舎2階の相談室で、放課後を中心に月5回ほどオープン。食事を提供する目的で、昼休みや始業前に開くこともある。困窮家庭の子、ルーツが外国にある子、性的少数者の子。介護など家族の世話をする〝ヤングケアラー〟も少なくない。生きづらさを抱える生徒にとっては、等身大の自分でいられる貴重な居場所だ。

 1年の頃からカフェに通う3年の男子生徒(18)は、外見にコンプレックスがあって、人と接するのが苦手だという。それでも「ここにいる大人はフレンドリーで、区別なく優しく会話してくれる」。自分から話し掛ける勇気をもらい、友人ができたと笑顔で語った。

教会が後方支援

 となりカフェは、若者支援に携わる一般社団法人「officeドーナツトーク」(田中俊英代表)が2012年秋から行っている。同社団のメンバーに、神職に当たる金光教教師がいた縁で、金光教大阪センターが2019年5月から協力している。

 月例祭などで神前に供えられる食品を支援団体に送る「おさがりねっと」を構築。中近畿教区(大阪府、奈良県、和歌山県)の約20教会がサポーターとなり、大阪センターが事務局として物資の需給を調整する。となりカフェではお米が必要とされることが多く、9日には無洗米5㌔を贈った。

 また、中近畿教区青年室に所属する若手の金光教教師が月1回、活動を手伝う。保護者でも教職員でもない「第三の大人」として、同社団のスタッフと協働している。

 布教が目的ではない。金光教には、信者であるかどうかを問わず「皆、神の氏子」という考え方がある。教会から現場に出て、困っている若者を助け、学びを深めるための活動だ。

昼休みには炊き立てのご飯も提供

温かい目線で

 西成高校生徒支援室室長の森ゆみ子教諭(49)によると、となりカフェを設けたきっかけは、ある女子生徒が「家にキャベツしか食べ物がない」と語ったことだった。生徒らの遅刻や居眠りの背景に、貧困をはじめとするさまざまな困難が浮かび上がった。

 「成績を付ける教員と付けられる生徒という上下関係から離れて、ほっとできる居場所が必要」。そう考えて、カフェの運営を外部に任せ、教員がめったに寄り付かないようにした。勉強に向かうハードルを下げる授業や専門職との連携など、さまざまな取り組みと合わせて、中退率を下げることにもつながった。

 9日午後3時半。放課後のカフェにも、生徒が代わる代わる訪れた。ギターを弾いたり、ボードゲームに興じたり、おしゃべりをしたり。金光教教師とスタッフらは、生徒の飲み物を作りながら、さりげなく声を掛けて会話に入っていく。深刻な相談があれば、別室で対応するという。

 「officeドーナツトーク」の精神保健福祉士、奥田紗穂さん(30)は、金光教教師について「宗教者ならではの温かい目線で生徒に接してくれるし、思いが伝わってくる。今後も手伝いに来てほしい」と語る。

 金光教教師の青山信明さん(37)は「通ううちに、青少年と接することに慣れてきた。この経験を教会での対応につなげたい」。白神ナナさん(22)は「こちらが高校生から元気をもらえる。宗教者としての視野が広がり、成長できる」と話した。

オープン前には廊下に看板が出される

(文化時報2020年7月22日号から再構成)
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