膝交えて聞法を 真宗大谷派門首・新門が記者会見

 2020年7月1日に就任した真宗大谷派の大谷暢裕第26代門首(68、釋修如)と、長男の裕新門(34、釋慶如)が同30日、真宗本廟(東本願寺、京都市下京区)の宮御殿でそろって会見に臨み、「門徒の皆さまと膝を交えながら一緒に聞法し、800年守られてきた浄土真宗の教えが尽きぬよう、一生懸命尽くしたい」と抱負を語った。

 暢裕門首は暢顯前門(90)のいとこ。京都市生まれで、1歳のときに南米開教区の開教使だった父・暢慶氏とブラジルに渡った。サンパウロ大学物理学部学士課程卒。航空技術研究所に勤務し、物理学博士号を持つ。2011年に鍵役・開教司教に就任し、14年に門首後継者に選定された。

 裕新門はサンパウロ大学分子学科卒。東京大学大学院で数理科学を学び、博士号を取得し、現在は大谷大学大学院真宗学専攻修士課程に在籍している。17年に鍵役に就任。暢裕門首の就任時に、補佐役となる新門と開教司教に就いた。

 両門は共にブラジル国籍。暢裕門首は「浄土真宗は国や人種、性別、年齢などに関わりなく、平等の世界を説く教え。何が違っていても、生きとし生ける衆生に、お念仏を届けたい」と力を込めた。また6月30日に退任した暢顯前門について、「暢顯前門の後ろ姿を一生の目標として歩んでいく」と思いを語った。

 裕新門は「ブラジル育ちという教団外部の視点を生かし、中の価値観を問い直しながら、海外布教に尽力したい」と述べた。

 会見は当初、就任翌日に開かれる予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期され、御真影の厨子を開く御親開など、就退任の行事も中止となった。

 暢裕門首は就任から約1カ月間を振り返り、「差別・偏見を生み出す人間のありようを見過ごさない視点が大切」と、新型コロナウイルスに揺れる社会へ警鐘を鳴らした。

 また宗派の礎であり、2021年が成立40年となる宗憲を「大谷派の大事なベース」と表現。信仰運動である同朋会運動=用語解説=を「世界の誰にでも開かれ、平等の教えを伝える運動」と示した。

南無阿弥陀仏を世界中に 暢裕門首

──門首就任への率直な思いと、就任1カ月で感じたことをお聞かせください。

 暢裕門首「門徒の皆さまと膝を交えながら一緒に聞法し、800年大事に守られてきた浄土真宗の教えが尽きぬよう、一生懸命尽くしたいと思います。7月28日に門首となって初めて、宗祖親鸞聖人の命日法要に臨み、御真影の扉を開かせていただきました。『よろしくお願いします』と頭を下げる気持ちでした」

──目標はありますか。ブラジルでの経験をどのように宗門に生かしたいですか。

 暢裕門首「門首に就任するにあたって一番大切な経験は、毎朝の晨朝(じんじょう)をはじめ、宗派の法要で大谷暢顯前門の後ろ姿を拝見させていただいたこと。光り輝くようでした。その後ろ姿を一生の目標としたい」

 「一番大事なのは、私も真宗門徒の一人であるということ。皆さまと一緒に聞法を続けることが大事な仕事です。もう一つは、大谷派宗憲を大事に守りながら、まっすぐに歩んでいくことです」

 「『ブラジル国籍だから』という特別な目標はありません。浄土真宗の教えは、国や人種、性別、年齢などに関わりなく、平等の世界を説いています。南無阿弥陀仏を世界中に届けるという大谷派のビジョンは変わりません。生きとし生ける衆生に、お念仏を届けたいと願っています」

 裕新門「私はブラジルの生まれで、国籍もブラジルです。開かれた浄土真宗の教えの下で、ブラジル人として精いっぱい務めたい。開教使だった祖父・大谷暢慶がブラジルで築いたご縁を忘れずにいたいです」

 「新門の勤めを果たすとともに、開教司教にも就任したので、海外のご門徒さんとの交流を深めたい。誰とでも膝を突き合わせて聞法する姿勢は、日本においても欠かせません」

科学と宗教、対立しない 裕新門

──2014年に後継者となり、日本に来られてからの思いを。

 暢裕門首「大切してきたのは、皆さんと一緒に聞法すること。その次は声明。儀式もしっかりと習う。この3点です。その他に、書道の稽古をしています」

 「国内の別院を巡って、日本は広い国だと感じました。その土地に合った食べ物があり、それぞれが大事にしているものを持ち続け、皆が同じように南無阿弥陀仏を唱える。ありがたいことです」

──科学と宗教の役割の違いは。

 暢裕門首「科学は人間が便利に生きるためのツール。一方、科学技術が発達しても、お釈迦さまの時代から何ら変わらず、人は生老病死の日々を生きています。科学技術を使う人の命を支えるのは、宗教心です」

 裕新門「科学と宗教は、どちらも真理を追究します。科学は人の外側を見ています。宗教は、苦しむ人間として生まれ、どう生きるかを課題としています。二つは対立しません」

──新型コロナウイルス感染症についての所感を。

 暢裕門首「差別や偏見を生み出す人間のありようを見過ごさないという視点が大切です。あらゆる人々を尊び、御同朋御同行の精神を一生懸命伝えることが、宗教者にできることです。宗派としては、『ウィズコロナ』の時代で、新しいテクノロジーに柔軟に対応する心構えが大切でしょう」

──大谷派の教えや浄土真宗についての思いは。

 暢裕門首「『私がこのままで助かる教えが南無阿弥陀仏』ということが第一。第二は『私の一生を支えていてくれるのはご縁』ということ。三番目は、『皆が平等である』こと。親鸞聖人をお手本とし、日々、正直に生きることを学んでいかねばなりません」

 裕新門「浄土真宗の特長は、絶対他力の教えではないでしょうか。如来に帰依することこそ、どんな人にも開かれる救済の道だといただいています」

──教団問題=用語解説=と門首の役割について、どのようにお考えでしょう。

 暢裕門首「教団問題が起こった頃のことは直接知りません。ただ、問題を通して成立した現在の大谷派の宗憲を大事なベースとして、何事も宗憲を基に門首の仕事を精いっぱい果たしたいと考えています」

──大谷派の教化活動のベースには同朋会運動があります。

 暢裕門首「同朋会運動は信仰運動です。同朋会運動を通して、世界の誰にでも開かれた平等の教えを皆さんと聞法しながら南無阿弥陀仏を伝えていく。その働きが世界平和につながってほしいと願っています」

──宗教にとって難しい時代です。求められる宗門になるには何が必要でしょう。

 暢裕門首「まずは子どもの宗教心を育てることでしょう。生きとし生ける者が平等で、『皆が助からないと私も助からない』ということを伝えたならば、十数年先に互いを尊ぶ社会になります。これは私自身が子どもの頃にブラジルへ渡り、実感したことです」

 裕新門「念仏者が生まれる場を作ることです。教えに出遇うとは何か、どういう形で伝えるべきかを考える必要があります」


        
【用語解説】同朋会運動(どうぼうかいうんどう=真宗大谷派)
 1961年の宗祖親鸞聖人700回御遠忌法要を機縁に、その翌年に当時の訓覇信雄宗務総長によって提唱された信仰運動。「家の宗教から個の自覚へ」というスローガンが掲げられた。

【用語解説】教団問題(真宗大谷派)
 1969(昭和44)年、当時の大谷光暢法主が、内局の承認を得ずに管長職を長男の光紹氏に譲渡すると発表した「開申事件」を発端とする騒動。「同朋会運動」を推進する改革派と、大谷家や大谷家を擁護する保守派が対立し、後継者が次々と離脱した。最終的に光暢法主の三男、暢顯氏が96年に門首に就任し、沈静化した。〝お東紛争〟とも呼ばれる。

(文化時報2020年8月5日号から再構成)
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