「看仏連携」初の研修会 まず病院内から

 看取りやスピリチュアルケア=用語解説=を巡って看護師と僧侶の連携を目指す「看仏連携研究会」の第1回研修会が10月11日、オンラインで開かれた。「病院内における看護師と僧侶の連携と協働」をテーマに、約30人が講演やグループワークで学びを深めた。

オンラインで行われた看仏連携研究会の第1回研修会

 看仏連携研究会は、臨済宗妙心寺派僧侶で、医療経営コンサルティングなどを手掛ける株式会社サフィールの河野秀一代表取締役が呼び掛けて設立。研修会を通じ、病院・看護師と寺院・僧侶を結び付けることを目的としている。

 研修会では、長岡西病院ビハーラ病棟(新潟県長岡市)で約10年間、常勤ビハーラ僧を務めた森田敬史龍谷大学大学院教授の講演ビデオを上映。森田教授は「僧侶が患者に関わることの即効性は、限られている」と指摘した上で、「心に響くポイントは、患者それぞれ。何げないお世話を通じて関係性を作り、アンテナを張っている」と、僧侶の役割を語った。

 続いてパネルディスカッションとして、浄土宗僧侶で松阪市民病院緩和ケア病棟(三重県)の臨床宗教師、坂野大徹氏と、がん看護専門看護師の小山富美子神戸市看護大学准教授が、それぞれの立場から連携のポイントを語った。小山准教授は事前収録で臨んだ。

 また、2020年5月に訪問看護ステーション「さっとさんが願生寺」(大阪市住吉区)を開所した浄土宗願生寺の大河内大博住職が、自身の取り組みを紹介。僧侶は医療・福祉との連携を通じて公共性を身に付けることや、患者・家族のスピリチュアルケアに当たることが問われるとした上で、「寺檀関係以外の関係をいかに紡ぐかが重要」と述べた。

 その後、参加者が3~4人ずつに分かれ、鍋島直樹龍谷大学大学院教授の司会で「看取りで必要なもの」について意見交換した。

 公益社団法人大阪府看護協会の高橋弘枝会長は「僧侶と看護師は互いの専門性を生かしてチームを組むべきだ。この活動をどんどん続けていかなければならない」と強調。「僧侶は看取りにこだわらず、生き方を支えるアプローチをしてもいいのでは」と話した。

 登壇者の主な発言は以下の通り。

「対機説法」が有効
龍谷大学大学院教授・森田敬史氏

 私が常勤ビハーラ僧として10年間勤務していた長岡西病院ビハーラ病棟(新潟県長岡市)は「お坊さんのいる病棟」として認知されていた。仏堂では朝夕の勤行があり、その様子は病室のテレビに中継されていた。

 ビハーラ僧は、何げない身の回りのお世話を通じて、患者との関係性を構築している。心に響くポイントが違うので、型にはまったケアのメニューを作るのではなく、その場で対応することが重要。「対機説法」の考え方が有効だ。あえてふらふらしてアンテナを張り、空気感をキャッチする。

 「宗教者は救いの世界に導いてくれる」「心のケアの専門家だから安心だ」などと、医療者からは期待されているかもしれないが、即効性が確認できるのはほぼ一部。宗教者は、生き切ろうと一生懸命な人に、心を寄せることしかできない。無力な自分をしっかりわきまえておく必要がある。

 医療者は0か1かのデジタル的アプローチをするが、宗教者はアナログ的アプローチを試みる。隙間産業のような状態を作り出すことを目指すといえる。

 宗教者には、医療者の負担をなくすことは難しいが、軽くすることはできる。生死の問題に関われるのも、宗教者ならではだろう。

布教・伝道は目的外
松阪市民病院緩和ケア病棟臨床宗教師・坂野大徹氏

 スピリチュアルペインはがんと診断されたときから生じる。告知を受け、診察室から出たとき、患者は誰かに話を聞いてほしいという思いになる。この時点から、緩和ケアは必要だ。

 松阪市民病院緩和ケア病棟には、最期を迎える方が入院する。理念は「静かに自分自身を見つめる場」。これ以上治療を望めない人が、自分の来た道を振り返る。その中で臨床宗教師は、亡くなるまでのスピリチュアルケアを担い、亡くなった後は患者が所属する宗教・宗派の宗教者や遺族会にバトンタッチする。

 出勤日は、朝の申し送りで患者の状態を確認し、午後のカンファレンスに参加する。症例検討会に出席することもある。各病室を必ず1回は訪れ、患者と話をする。話ができない状態でも、聞こえている前提で、家族といろいろな会話をする。談話室で一緒にお茶を飲むこともある。病棟の行事や外出支援も行う。

 布教・伝道を目的とした活動はしていない。こちらから宗教的な話はしないし、尋ねられれば宗教・宗派を問わず、自分の知識を基に答えている。ただ、患者から求められて、御詠歌のCDを貸したことや、双方了解の上で般若心経を唱えたことはある。

葛藤に寄り添って
神戸市看護大学准教授・小山富美子氏

 医療現場で看護師が僧侶に期待することは、二つある。一つは、生きること・死ぬことに関する現場の葛藤に寄り添い、一緒に考えてくれる存在であること。もう一つが、死への恐れと専門職としての成長の間で葛藤する若い看護師の「揺らぎ」への支援だ。

 僧侶には、チームに入って、スピリチュアルペインを抱える患者・家族の直接的なケアやサポートをしてほしい。看護師にとっては、スピリチュアルペインのことを分かっている人がそばにいることは心強いし、スキルアップにもつながる。

 緩和ケア病棟では、亡くなった後に患者のことを振り返る「デスカンファレンス」を行い、悲嘆を支え合っている。ただ、多忙で時間の確保が難しく、建設的な意見交換が目的なのに、責められている感情になることもある。僧侶が加われば、違う視点を示せるはずだ。

 新型コロナウイルスの影響で、2020年度卒業の看護師は実習を十分に受けていない。自分の死生観を問い直したり、素直に話し合ったりする環境がない。そうした若い看護師への支援も含め、ケアを一緒に考えてくれる人、そばに寄り添ってくれる人として、僧侶には同じチームにいてほしいと願っている。

寺檀以外の関係紡ぐ
浄土宗願生寺住職・大河内大博氏

 訪問看護ステーション「さっとさんが願生寺」(大阪市住吉区)を2020年5月に開所した。社会と寺院が困難を抱える中、これからどんな時代を生きるのかを考えたことが出発点となった。

 寺檀制度が限界を迎え、墓じまいや仏壇じまいが進んでいる。新型コロナウイルスの影響で、儀礼の簡素化も進んだ。檀家というメンバーシップは弱体化せざるを得ない。

 日本は人口減少と高齢化で他の先進国にない事態を迎える。社会保障や死生観も変化するだろう。いずれは宗教者らが医療・福祉に関わるが、今は時期尚早で、本番は2030~50年ごろではないか。それに向けて、鍛錬しておく必要がある。

 さっとさんが願生寺は、ケアの専門職を在宅医療の現場に派遣する「スピリチュアルケア在宅臨床センター」と両輪だと考えている。目標は、社会全体に仏教精神を伝えることだ。

 大切なのは、僧侶が公共性を持って、どう多職種連携できるか。世代間をいかにつなぎ、多様な価値観を尊重し合えるかだろう。

 地域によって課題は違うが、寺院は寺檀関係以外の関係を紡ぐ必要がある。社会の中でさまざまな人と支え合い、信頼関係を育む役割があるのではないか。
            ◇
【用語解説】スピリチュアルケア
 人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

(文化時報2020年10月17日号から再構成)
(購読のお申し込みは0800-600-2668またはお問い合わせフォーム