終末期ケアを考える 沖縄大学、僧侶招き

 沖縄大学は9月25日、土曜教養講座「大切な人を最期に看取ること―終末期ケアを考える」をオンラインで開いた。高野山真言宗飛騨千光寺(岐阜県高山市)住職でスピリチュアルケア=用語解説=に詳しい大下大圓氏が基調講演を行い、沖縄県内の病院看護師2人と共に議論。約140人がケアの本質について学びを深めた。

 土曜教養講座は1976(昭和51)年に開講した一般公開講座で、今回が578回目。長年にわたって多彩なテーマを扱っており、沖縄大学の研究成果を社会に還元している。昨年、大下氏が理事を務める日本スピリチュアルケア学会の学術大会が同大学で開かれたことが、今回の開催につながった。

 大下氏は、定義の難しいスピリチュアリティーについて、「病気や事故など、自分の人生や家族にとっての危機に出現するもの」と説明。これに対処するために、医学には死生学の知見が必要だとの認識を示した。

 具体的には、死生学を「死から生きる意味を探索・省察する学問」と位置付け、宗教学や哲学、心理学などを通じ「死に対する心構えと、生の価値を問い直す試み」と指摘した。

 地元のクリニックなどでスピリチュアルケアに携わった実例も紹介。活動を始めた当初は「苦しみから救わなければ、助けなければ、役に立たなければという高慢な姿勢があった」と振り返り、「人は苦しみの中から成長すると気付いた。その後は『成長を支える』という視点を持つようになった」と語った。

 また、「苦悩は財産であり、自分を育てる『仏種』。ケアラーも家族も本人も、自分を高めつつ他者と共に生きる自利利他の関係性が重要になる」と呼び掛けた。

死生観学習 ACPと対話で

 基調講演の後には、元がん患者で看護師の上原弘美氏と、緩和ケア認定看護師の金城ユカリ氏も登壇。医師の山代寛副学長が司会を務め、大下氏と語り合った。

登壇した山代副学長、大下氏、上原氏、金城氏(沖縄大学提供)

 参加者からは、子どもが末期がんで自身もがんになった母親に対し、どのように接すればいいかという質問があった。

 上原氏は「つらい気持ちにフォーカスするとよりつらくなるので、心をほぐしながら人となりを知る」、金城氏は「結果は出なくても時間が解決することと思って、そばにいるよう心掛ける」と回答した。

 これに対し、大下氏は「全部を医師や看護師で解決しようとせず、無理しないこと」と述べ、十分な対応ができない場合に専門家に問題解決を委ねる「リファー」の重要性を指摘。スピリチュアルケア師=用語解説=臨床宗教師=用語解説=を活用し、親子に別々に関わる必要性を説いた。

 死生観をどう育むかも話題になった。大下氏は、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)=用語解説=を通じて「元気なうちから、いのちについて考えることが大切」と強調。葬儀や法事、人生の節目となる出来事を捉えることを提案した。

 一方で、死を目前にした相手に対しては「議論や決めつけではなく、死後の世界についてやりとりすることが死生観学習になる。信仰がなくても、漠然とした思いを意識化することで、死後への希望を持てる」と語った。

 沖縄大学の須藤義人准教授(宗教哲学・映像民俗学)は「参加者からさまざまな反響があり、早くも医療・看護職や研究者、宗教者らによるネットワークが立ち上がった。大学としても、スピリチュアルケアの社会人講座の開催の検討を始めたい」と話している。
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【用語解説】スピリチュアルケア
 人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

【用語解説】スピリチュアルケア師
 日本スピリチュアルケア学会が認定する心のケアに関する資格。社会のあらゆる場面でケアを実践できるよう、医療、福祉、教育などの分野で活動する。2012年に制度が設けられ、上智大学や高野山大学など8団体で認定教育プログラムが行われている。

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
 布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う、心のケアの専門職。2011年の東日本大震災をきっかけに、東北大学で本格的に養成が始まった。近年は医療従事者との協働が進む。ほかにも、浄土真宗本願寺派のビハーラ僧、キリスト教系のチャプレンなど、主に緩和ケアの現場で終末期の患者に寄り添う宗教者が知られている。

【用語解説】アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
 主に終末期医療において希望する治療やケアを受けるために、本人と家族、医療従事者らが事前に話し合って方針を共有すること。過度な延命治療を疑問視する声から考案された。「人生会議」の愛称で知られる。

(文化時報2021年10月4日号から再構成)
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