日蓮宗 30年前から過疎化の問題を指摘

日蓮宗

 

30年前から過疎化の問題を指摘

組織的に行動できるのか?

 

平成の時代、宗教界は過疎化という大きな課題に直面した。バブル景気に沸く中、平成元年にいち早く人口減少社会の到来を予測し、警鐘を鳴らしたのが日蓮宗だった。

日蓮宗現代宗教研究所は平成元(1989)年に『過疎地寺院調査報告―ここまで来ている過疎地寺院 あなたは知っていますか?』を発行した。表紙をめくると、「寺は崩壊するか」との見出しが目に入る。「世の中の変化に寺はついていけなかったのか 寺ではなく僧侶に問題があったのか 何が、誰がこうさせたいのか我々は知りたい 知らなければ、これからの日蓮宗の未来を語ることはできないと考えるからである」とあり、当時にすれば、かなり刺激的な表現だ。

現宗研は数年前から、北海道、秋田県、新潟県、千葉県、山梨県、福井県、京都府、島根県の9ヵ所で調査を行っていた。同書は、過疎地の実態調査から見えてきた問題を提起するために発行されたが、この警鐘が生かされたとは言い難く、寺院の状況は、調査時の予測とほぼ同じように推移している。

福井県の今庄町は、かつて北国街道、北陸街道の交差地、今庄宿として繁栄した。昭和35(1960)年ごろから過疎化が進み始め、現在は合併して南越前町になった。町は今後も人口減少が進むと予測し、それに沿った長期総合計画を立てるとしている。

同町には5ヵ寺がある。JR北陸線今庄駅から徒歩4分の善勝寺は、尼僧の逝去後から30年以上、無住寺院となっている。最大10軒あった檀家は、平成元年には8軒、現在は5軒になった。

調査報告書には立派な伽藍の写真が掲載されているが、今は風雪に耐えるためか、全面が鋼板で覆われ、入り口しか見えない。(写真)法華宗から日蓮宗に転派したため法類組織が機能せず、代務住職も立てられないという。

他の4ヵ寺は調査時には住職が常住していたが、「後継者なし」と回答。住職の逝去後、3ヵ寺は代務住職が法務を担っている。1ヵ寺のみ10年間の無住職状態を経て、他の地域から若い僧侶が入寺した。

 30年前の調査報告では、さまざまな社会変動が檀家制度を揺るがし寺院活動を弱め、さらに農村地区に多く認められる寺院と檀家との因習的な拘束性も後継者難の一因となっていると推察。そして「福井県の10年後、20年後を考えるとき、さらに住職不在寺院が増大することは確実と思われ、それに伴い県内における宗門の伝道活動は、憂慮される事態に陥ると考えられる。このような事態に早急に対応しなければならないことは、福井県だけに限らず、宗門全体の課題と言える」と警鐘を鳴らした。

この傾向は、日蓮宗に限ったことではない。福井県に複数の本山と多くの寺院がある真宗系教団も「門信徒が少なくなって、住職がいなくなる事態に至ったとき、残る門信徒がどのように信仰を護っていけばいいのかのルールさえも定まっていない」と危機感を募らせる。人口減少という差し迫った危機が近付いていることを、過疎地寺院は示している。