都会で暮らす人々に仏事を② 高野山東京別院

都会で暮らす人々に仏事を②

 

高野山東京別院

 

郷里の菩提寺を大切にしながら

 

高野山真言宗(添田隆昭宗務総長)は昨年9月、東京別院(港区高輪)に「高野山真言宗首都圏僧侶派遣窓口」を開設した。郷里の菩提寺と連携を図りながら、すでに20件ほどの依頼に対し、別院僧侶が出仕して葬儀や法事を勤めている。

首都圏で大師信仰を継続してほしいとの願いのもと、施主、東京別院、そして菩提寺との三者の関係を大切にする。施主側の葬儀や法事の費用については、戒名は菩提寺でつけてもらい、布施は菩提寺に全額を渡す。相談窓口である東京別院に在山する主監も含めた8人の僧侶が派遣された場合の布施は、菩提寺と執行者である東京別院が折半する。

また、遠距離の菩提寺住職が葬儀や法事で東京に来る場合、1泊1000円(食事なし)で別院に宿泊も可能。

同派では僧侶派遣窓口を設けたことを教報や宗報に掲載し、宗派の支所長を通じて各寺院に周知。郷里を離れて首都圏に住まいを構えた次男や三男に対し、仏事相談がある場合は専用電話に連絡してもらうことを推奨している。さらにインターネットで「高野山僧侶出仕」と検索した場合、東京別院がヒットするように工夫している。現時点では関西や九州などの、特に実家の菩提寺からの連絡がほとんどだという。

高野山東京別院の廣瀬義仙主監は「人口が集中する首都圏で、宗派も分からずに葬儀をしてしまうことを少しでもなくすため、そしてお大師さんの教えに沿って、しっかりとあの世に旅立ってもらいたいとの思いで取り組んでいる。重要なのは菩提寺の存在で、もし東京別院に連絡があった場合、菩提寺を聞き、分かった時はそのお寺に連絡をする。しかし宗派内寺院の中には兼職している住職も多く、首都圏に赴けない場合は、菩提寺住職の了解を得た上で東京別院から僧侶を派遣し、葬儀や法事を行う。ただ、お葬式は東京で行っても、郷里に帰って墓所を求めてほしいと必ず伝えている」と説明する。

中には、「菩提寺が分からない。確か真言宗だったような気がする」といった相談者に対しても、極力、別院で菩提寺を調べ、他宗の寺院であれば、その菩提寺や宗派に連絡するよう心掛けているという。

今後、地方寺院の兼職者が増える中、さらに東京別院の僧侶派遣窓口の試みは重要性が増すことが予想される。

廣瀬主監は「経済的に厳しく、『直葬でいい』という人にも、僧侶として『それは親不孝だよ。お金がなければないなりに、 先祖に感謝しなければならない』と伝えている。お檀家を大事にし、満足のいくお寺参り、お墓参りをしてもらわなければならない。先祖のありがたさ、生かされている命の大切さを、私たちも若い人たちに教育していかなければ。今こそ宗教ががんばらなくてはならず、そのためにも法事で困っている首都圏の人々の窓口となるよう、東京別院から高野山の存在を、お大師さまの教えをアピールしていきたい」と話している。