外来・在宅に学べ 進む「ビハーラ僧」養成

 医療機関や福祉施設で専門知識を持ってスタッフと協働し、心のケアを行う僧侶「ビハーラ僧」を養成しようと、浄土真宗本願寺派が試行する「ビハーラ僧養成研修会」の2期生4人が全ての研修を終え、修了証を受け取った。修了生らは今後、現場に入り、人々のいのちに寄り添う。
 

修了式に臨むビハーラ僧養成研修会の2期生たち


 研修会は2017年度に開始。今期は昨年10月にスタートし、座学を中心とした16日間の前期基礎研修と、実際の施設で研鑽を積む54日間の後期臨床実習を行った。

 後期臨床実習は、宗派が母体の独立型緩和ケア病棟「あそかビハーラ病院」(京都府城陽市)と特別養護老人ホーム「ビハーラ本願寺」(同)を中心に、寺院が母体の特別養護老人ホーム「常清の里」(大阪府茨木市)、緩和ケアを行う三菱京都病院(京都市西京区)、在宅医療などを行う沼口医院(岐阜県大垣市)で実施した。

 修了式は2月27日に行われた。竹田空尊総務は、念仏者の生き方をわかりやすく説いた「私たちのちかい」に触れながら、「ビハーラ活動を必要とする人は、どこにでもいる。研修で学んだことを心にとどめ、力を発揮してほしい」とエールを送った。
 
 東京教区観專寺の稲木義成さんは、「高齢の人も病気の人も未来の自分の姿。はじめは『支えなければ』と思っていたが、人として向き合うようになり、教わることばかりだった」と感想を語った。

 石川教区本光寺の八幡真衣さんは「自身の死後に生まれるはずのお孫さんのエコー写真を片手に、『仏教を聞いても消えない欲がある。会いたい』と涙する患者さんに何も言えなかった。『一緒に泣いてくれてありがとう』と言われたことは忘れられない」と話した。

 和歌山教区浄永寺の山本顕生さんは、龍谷大学大学院実践真宗学研究科の2年生。「実習時間の長さが特長」と、ビハーラ僧養成研修会の利点を挙げる。「在宅医療に関わる看護師さんが、『医療者が聞けない思いを受け取ってくれてありがとう』と、実習生の自分に声を掛けてくれたことが印象に残っている」と述べた。

 和歌山教区教法寺の森薫さんは「自身の家族との接し方も変わった」と明かす。「『仏教のまなざし』をより意識しはじめた。中学生の長女の悩みを聞いても、頭ごなしに説かず『そういう見方もある』と考えるようになった。ビハーラ活動は生き方だと思う」と語った。

決めつけず、苦悩を聴く

 4人は緩和ケア病棟での外来診療や、在宅医療の現場にも同席した。患者や家族から僧侶の存在感やケアをより必要とされる場面で、対応などを学んだ。

 「何もしなければ半年。治療して1年と診断された」。2月4日に行われた三菱京都病院での臨床実習では、外来を訪れた50代男性が、自身のがんについてこう打ち明けた。11年前には母親を他の緩和ケア病棟で看取ったという。

 担当の吉岡亮医師は、男性の暮らしや病状を聞きながら、がんの進行に伴う病状などを丁寧に説明。自宅付近の在宅医療機関で受診することなども勧めながら、延命治療の希望を聞いた。男性は「苦しむぐらいなら、延命治療は希望しない」と答えた。

 同席した実習生の八幡さんは「男性は、残された人が苦労しないよう、全てを処分しようとしているようだった」と語った。

 八幡さんは、これまでの三菱京都病院の実習でも外来診療の現場を経験。家族に負担をかけたくない患者や、悲嘆する入院患者の家族が苦悩する姿も見てきた。「『諦めないでほしい』と話す家族に、医師は『緩和ケアは、諦めではない』と諭していた。医師と患者の関係性がなければ、僧侶が立ち入ることも難しいと感じた」と振り返った。

緩和ケア病棟の病室で患者の苦悩に寄り添う=京都市西京区の三菱京都病院

 
 緩和ケア病棟に入院する荒堀明夫さん(84)は、部屋を訪れた同病院ビハーラ僧の山本成樹氏と八幡さんを、暖かく迎え入れた。山本氏は笑顔で、成功と失敗を繰り返した波乱万丈な半生を聞いていく。「こんな体でも誰かの役に立てれば」。荒堀さんは医学生向けの献体を申し出ているという。

 山本氏は八幡さんに「『患者さん』ではなく、『荒堀さん』と出会っている。好きなことを語っているときは、広がりを持って話をしてくれることが多い」と説明した上で、こう伝えた。

 「本当の苦しみはわからない。『わかります』という言葉は、使わない」

 八幡さんは研修後、石川県小松市の自坊に帰った。「研修を通じて『自分』以外を見る視野が広がった。日常の寺院活動にビハーラの視点は欠かせないと感じる。その人にしかない輝きを感じ、決めつけない僧侶になりたい」と話している。

(文化時報2020年2月15日号・3月4日号から再構成)
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【速報】西山浄土宗、宗会を解散 京都西山学園巡り

 西山浄土宗宗会(櫻井寛明議長)は22日、第136次臨時宗会を開き、櫻井随峰宗務総長が解散を宣言した。議会の介入が許容範囲を超えたためとしている。議会制度が創設されて以来、解散は初めて。50日以内に宗会議員選挙を行い、議員選出後30日以内に改めて臨時宗会を開く。

解散された西山浄土宗宗会=22日

 西山浄土宗の宗会は、宗務総長が招集するほか、宗会議員の半数以上の要求により、議長が参事会の意見を聞いて、宗務総長に招集を要請する。今回の臨時宗会は、議員20人中16人が招集を要求。櫻井寛明議長は、内容が宗会開催の要件を満たさないと考えていったん差し戻したが、再び要求があり、櫻井随峰宗務総長に招集を求めた。

 議会側は、議員立法による議案上程をせず、内局に答弁を求める質疑4項目を「議員発議案」とした。この中に「西山浄土宗と京都西山学園、特に京都西山短期大学の関係の現状について質問を求める」との項目があり、これについてのみ秘密会で議事を進めた。

 京都西山学園の運営内容を別法人の宗会で明らかにすることは、守秘義務違反になる。そのため内局は「互いの運営に直接介入できないことを留意した上で対応を願いたい」とする学園の法人事務局長と顧問弁護士の談話を伝えた。議会側が納得せず、さらに質問を重ねようとしたところ、櫻井随峰宗務総長が解散を宣言したという。

和合の心で済ませたかったが…

 議会側は、京都西山短期大学の人事権や、櫻井随峰宗務総長が総長退任後、京都西山学園の理事に就任することに関して質問しようとしていたもようだ。散会後、議員からは「紳士的な対応を行おうと秘密会にしたのに、こんな横暴な対応は許せない」などの声が上がった。

 櫻井随峰宗務総長は「議案を提案することなく開会された宗会であり、議会としての要件を満たしていない」と指摘。その上で「弁護士の答えが全てであり、宗会で審議する内容ではない。その範疇(はんちゅう)を超える議論をしようとするならば、解散せざるを得ない」と話した。

 櫻井寛明議長は「和合の心で、話し合いによって済ませたかった。僧侶は、言葉で教えを説く。考え違いがあっても、議論の中で誤解を解くことができればと思っていたが、こうなったことは残念」と語った。

 西山浄土宗は、京都府長岡京市の光明寺を総本山とする伝統仏教教団。専修念仏を広めた法然上人を宗祖とし、その弟子の西山国師証空上人を派祖としている。傘下の寺院数は約600カ寺で、愛知県以西に広く分布する。

医療従事者「支えは仏教」

 医療・介護関係の多職種連携を目指すNPO法人「Life is Beautiful」(山下和典理事長)のセミナー「いのちの学び2」が、京都府長岡京市の中央生涯学習センターで開かれ、華厳宗僧侶で医師の川島実氏と、高野山真言宗僧侶で看護師の玉置妙憂氏が「死にゆく人のこころに寄りそう」をテーマに対談した。

 同法人は2018年12月、医師や歯科医師、栄養士、作業療法士らがメンバーとなって設立。障害や病気を持つ人とその家族が「生活者」として生きられるよう、月1回のセミナーなどを通じて学びを深めている。対談は20年2月11日に行われた。

 

対談する僧侶で医師の川島実氏(左)と僧侶で看護師の玉置妙憂氏

手を合わせて送る―川島実氏

 川島氏は京都大学医学部在学中にプロボクサーとなり、自給自足を目指して和歌山県の山奥で暮らすうち、地域医療に関心を持つようになった。現在は在宅医療の専門医として活動している。

 救急病院で勤務していた頃、担当していた患者を亡くして心が弱っていたことがあり、コピー用紙の裏にボールペンで般若心経を書き写していたという。母校の東大寺学園高校の先輩に当たる僧侶に誘われ、得度。「手を合わせれば患者や家族に喜ばれるが、あくまで自分を守るためにやっていること」と語った。

 また、霊安室で、亡くなった患者の家族に「われわれの力が及びませんでした」と頭を下げることに違和感を覚えるようになり、以後は手を合わせて送り出すようになったと明かした。

 東日本大震災の救援で宮城県気仙沼市に入り、話を聞いて薬を出すことしかできず「ごめんなさい」と思いながら診察していたのに、患者から「ありがとう」と言われたことに感動し、志願して現地の公立病院に転職したエピソードも紹介。

 父を自宅で看取った経験から、在宅医療の現場では患者が亡くなったとき、最期まで共に過ごせたこととつらい介護から解放されたことに対して、「良かったですね」と言うようにしていることを明かした。

医療が生む苦しみ―玉置妙憂氏

 玉置氏は看護師免許を取得後、夫をがんで亡くした。延命治療を望まなかった夫を自宅で看取った後、出家を決意。高野山で約1年間修行した。

 現在は看護師として勤務する傍ら、訪問スピリチュアルケアを手掛ける「大慈学苑」(東京都江戸川区)の代表として活動している。玉置氏も、仏教について「自分自身の支えであり、人の支えになるとは決して思っていない。だからこそ患者や家族に布教はしない」と語った。

 また、現代医学は延命至上主義をもたらし、生と死の境目をあいまいにしたと指摘。寿命や天寿という言葉で示されるように「後は仏や神に任せる」という死がなくなったと言い、「現代医学は、たかが人間である私たちに、延命措置をするかどうかを選べと言っている。そうして新たな苦しみを作り出した」と強調した。

 さらに、在宅で看取った夫の延命治療をしなかった経験などを引き合いに、「選択肢があれば必ず迷い、どちらを選んでも後悔する」と語った。

 こうしたスピリチュアルペインに対処している医療・介護従事者、家族らは、仏教でいう「利他行」を実践している半面、その前提には「自利」が必要だと指摘。「最初に自分のコップを水で満たすことが大切」と説いた。

(文化時報2020年2月19日号から再構成)
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ラオスで仏像修復20年 身延山大学、技術伝承

 日蓮宗の宗門学校、身延山大学が、ラオスのルアンパバーン世界文化遺産地域における仏像修復事業を立ち上げてから、今年で20周年の節目を迎えた。戦災で破壊された仏像を元の姿に戻し、技術を伝承しようという息の長い取り組みだ。

ラオス・ワット・アーバイ寺院で行われた修復作業(身延山大学提供)

 ラオスはインドシナ半島の内陸に位置する人口約650万人の国で、首都はタイ国境のビエンチャン。男性のほとんどが一度は出家して僧堂生活を送るといい、国民の多くは上座部仏教をあつく信仰している。

 19世紀はフランスの支配下にあり、20世紀になっても旧日本軍の進駐やベトナム戦争の主戦場になるなど、長く戦乱が続いた。1975年の建国後も、戦災復興に労を費やし、仏像の修復技術が絶たれていたという。
 
 修復事業が始まったのは、ラオスで教育支援活動を行っていた超宗派のBAC仏教救援センター(伊藤佳通理事長)から、仏像群の損傷が著しいと知らされたのがきっかけ。柳本伊左雄・仏教芸術専攻特任教授は「壊れた仏像を目の当たりにしたとき、同じ仏教徒として見過ごせないと責任を感じ、行動に移した」と話す。

現地の僧侶と身延山大学仏像制作修復室のメンバーら。「同じ仏教徒として見過ごせない」との思いで協力する

 2000年にルアンパバーン地域の36カ寺で調査を行い、仏像の素材や彩色、彫刻や技法についても研究を重ねた。翌01年にはラオス情報文化省と協定を結び、修復活動を本格化させた。
 
 これまで修復した仏像は74体にのぼり、調査記録と修復記録を作成している。2019年度は、ブロンズ1体、木彫3体、約4㍍の漆喰仏の金箔貼りを手掛けてきた。
 
 持田日勇学長は「崇拝の対象である仏像が修復されたことはもとより、世界に向けてラオスの仏教文化を発信し、国の発展に微力ながら貢献できたのではないかと感じている。事業が本学の誇れる特色となったこともありがたく思っている」と振り返る。
 
 柳本特任教授は「これまで修復活動をご支援くださった方々のためにも技術を高め、日本とラオスの両国で技術伝承に励みたい」と、事業継続と発展を誓っている。

 2月19日にはラオスのビスンナラート寺院で、身延山大学とルアンパバーン仏教連盟が合同で法要を開催。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する直前のタイミングで実現した。持田学長をはじめ、総本山身延山久遠寺の僧侶らと現地の僧侶らが出仕したという。

(文化時報2020年2月8日号から再構成)
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知恩院御影堂 380年前の輝き

 浄土宗の総本山知恩院(京都市東山区)で今年、国宝御影堂の大修理事業が完了した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、4月の落慶法要は大幅に縮小して営まれ、政府の緊急事態宣言が出ていた時期は、境内への立ち入りが禁止された。2011(平成23)年から9年に及んだ〝平成の大修理〟で取り戻した輝きは、いま再び参拝者の心を癒やそうとしている。

平成の大修理を終えた知恩院御影堂=京都市東山区

 知恩院の創建は、法然上人入滅の地に堂宇を建てたのが始まりだ。徳川家の庇護を受けたことで広大な伽藍整備が行われたが、1633(寛永10)年の火災で大部分が焼失。現在の御影堂は、焼失の6年後に徳川家光が再建したもので、2002(平成14)年に国宝に指定された。

 これまでに屋根の一部ふき替えや梁の補強など小規模な修理が4回行われたが、大規模修理は今回が初めて。総工費は、衆会堂の文化財修理費を含めて57億円(荘厳仏具を除く)という。

 報道陣に堂内を公開した1月29日、井桁雄弘執事長は「法然上人800年大遠忌事業に端を発して修理に入り、9年たって素晴らしい御影堂が完成した。お念仏の根本道場として幸せを運びたい」と語っていた。
 
現代の耐震基準 当時から満たす

 知恩院御影堂は、江戸時代初期に徳川家が各地で手掛けた大造営を示す代表的な建築物と位置付けられており、意匠や技術の面でも完成度が高いとされている。大修理を控えて実施した耐震診断調査では、約380年前の建築物にもかかわらず、現行の建築基準法の基準を満たしており、震度6強の揺れにも耐えられることが判明している。
 
 僧侶が立ち入る内陣と在家信者が礼拝する外陣が、一体と感じられるような空間設計も行われている。江戸初期の堂宇は、内陣と外陣が明確に分かれているのが一般的だが、知恩院御影堂は内外陣に段差を設けず、一体感を保っている。内陣まで光をとり込んで堂内を明るくする工夫もされている。

豪華な金箔押しを施した内陣に、光が届く

 堂宇全体をきらびやかに覆うのではなく、内陣の荘厳のみに豪華な金箔押しを施しているのも特色。導師が座る頭上に配した豪華な人天蓋(にんてんがい)や幢幡(どうばん)は天井から吊り下げてあり、豪華な厨子の宮殿(くうでん)と連続性を保たせてある。威圧するような大伽藍でありながら、身近に感じられる仕掛けといえる。
 
 今回の大修理に当たり、荘厳類の制作や修理が施された年代が判明した。

 人天蓋など大型荘厳の一部は、御影堂の再建当時のものが用いられていることが分かった。高さ約4㍍の大常華は、廃仏毀釈で仏教教団に逆風が吹いていた頃の1878(明治11)年、知恩院75世の養鸕徹定(うがい・てつじょう)門主の指揮で制作されていた。
 
 いずれの荘厳仏具も経年によるゆがみや傷みが見られ、修理は難航したようだ。大常華や大前机などの修理を担当した株式会社安藤の担当者は「長持ちするように強度を保たせるのに苦労した。いずれも長大で重量があり、熟練した職人でなければ美しく仕上げることができないものばかりだった」と話していた。

(文化時報2020年2月5日号から再構成)
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気候変動で非常事態宣言 宗教界初

 深刻な環境破壊や異常気象を食い止めようと、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会は、「気候変動への非常事態宣言」を採択した。WCRP日本委員会によると、宗教界では初の試み。さまざまな実践を通じて、「気候危機」への世論喚起につなげたいとしている。
 
 非常事態宣言は「地球環境がもはや元に戻らない危険水域に入っている」と強調。森林減少や海洋汚染などの課題解決に向けて「歴史上、前例のない規模とスピードで取り組む必要がある」と指摘し、非常事態の認識を共有して実践することが必要だと訴えた。
 
 具体的には、「もったいない精神」や少欲知足に基づくライフスタイルの確立▽宗教施設の森林保護と環境負荷軽減▽環境保護につながる投融資や商取引―などを提唱。国内の選挙で、地球温暖化対策の新しい国際ルール「パリ協定」の達成を争点化するよう呼び掛けることも盛り込んだ。

 非常事態宣言は、東京都杉並区の立正佼成会法輪閣で1月28日に行われたWCRP日本委員会の第30回理事会・第19回評議員会で採択された。理事会・評議員会では、特別事業部門(タスクフォース)の再編も承認され、気候変動タスクフォースが「気候危機タスクフォース」に名称変更されることも決まった。
 
 一連の取り組みは昨年8月、ドイツ・リンダウで行われた第10回WCRP世界大会で、気候変動に対する宗教コミュニティーの緊急行動がテーマになったことが背景にある。植松誠理事長は「今日の地球温暖化は危機的な状況にある。日本委員会としてもアクションを起こさねばならない」と話した。

(文化時報2020年2月1日号から再構成)
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【取材ノートから】震災を伝える意味 過去との接点

 阪神・淡路大震災から25年が経過した。私の記憶に残る震災は、被災した子どもたちへ寄付するための玩具を「あげていい?」と母が、4歳の私に一つ一つ確認し、父と一緒にどこかの集約所へ持っていったことのみだ。震災を知らないに等しい私にとって、阪神・淡路大震災は「過去の大地震」という認識だった。
 
 現在、神戸の街は美しく再建され、多くの人々が当たり前に生活している。市民の約半数が震災を経験しておらず、徐々に風化していく震災は「歴史」になりつつある。
 
 一方、宗教者は毎年1月17日に犠牲者の追悼法要や儀式を営み、参列者は「忘れてはいけない」と口々に話す。宗教者の役割とは何なのか。そもそも震災を伝える意味とは、何だろうか。

教会へ向かう車椅子の女性=1月17日、神戸市長田区

 2020年1月17日、早朝5時の神戸。追悼儀式の取材へ向かう途中、暗闇の中をゆっくりと、教会へ向かう車椅子の女性に目が留まった。彼女は神戸で震災を経験し、家族3人でつらい日々を乗り越えて生きてきた。「支え合い、心を通い合わす意味を伝えたい」。そう話してくれた。
 
 経堂に座る牧師は震災を直接経験してはいないが、生まれ育った神戸の街にさまざまな思いがあると言った。「きょうが過ぎて終わる話ではない。傷は一生残り、続いていく。26年目が始まった」と、十字架と位牌を見つめた。
 
 法要を営む僧侶は、志半ばで亡くなった犠牲者や、遺族の思いを噛みしめた。「今が当たり前になってはいけない。震災の経験を後世に伝える必要がある」と力を込めた。
 
 震災の傷跡は、今も人々の記憶の中に残っていた。
 
 今の神戸は6343人の尊い犠牲と、被災者や支援者たちの苦しみや悲しみと向き合った時間の上につくられている。震災で負った心の傷は深く、25年で消えることはなかった。それを今日まで支えてきたのが、人と人とのつながりだった。

 「忘れてはいけない」の言葉には、今の神戸が存在する意味や、傷ついた人々の生きる思いが込められているのだと知った。
 
 人々が手を取り合い、支え合わなければならない瞬間はいつか必ず来る。そうした瞬間のためにも、過去や現在の人々をつなぎ、未来へと伝える接点であることが、宗教者の大切な使命なのではないだろうか。(大槻優希)

(文化時報2020年2月1日号から再構成)
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日航機事故の遺族、僧侶に研修

 1985年8月12日の日航機墜落事故で妻を亡くした工藤康浩さん(59)が、大阪の浄土宗僧侶らを前に講演した。浄土宗大阪教区が行った「グリーフ(悲嘆)研修」の講師として登壇した。悲嘆を抱える人に寄り添うには、第三者と遺族の中間に立つ「2・5人称」の視点が大切だと説き、悲嘆が生きる力に転換する様子を見守ることが必要だと訴えた。

僧侶を前に講演する日航機事故遺族の工藤さん

 工藤さんは結婚後半年で妻を亡くした後、現在の妻である理佳子さんと再婚した。「彼女は、遺族である僕に出会ってしまった。自分自身の夢もあっただろうが、全てを閉ざして僕に寄り添うことを決めてくれたのだと思う」と語る。
 
 事故後の周囲の人々との関わりについては「妙に同情する人がいたが、悲しみの中にいると、それさえも煩わしく感じられた」と振り返り、「時間がたてば忘れるという人もいる。それでも、悲しみは一生残る。悲しみを消すなどということは、あってはならないと思う」と、寄り添いのあり方に言及した。
 
 事故を起こした日航と関わる中で、大切だと感じるようになったのが「2・5人称」の視点。「1人称は被害者、2人称は遺族、3人称は第三者。日航とは互いに2・5人称の立場になったことで、同じ方向を向くことができた」と振り返り、辛苦に耐える人との接し方においても、同様の視点が必要だと述べた。
 
 さらに、事故の風化をどのように見守るのかが第三者には問われているとの見方も示した。「風化は元の姿に戻ろうとすること。当事者は、ゆっくりと変化し、元の生活に戻っていく。風化を止めることは、悲惨な状況をとどめるということになる」と指摘。「変化を理解してもらうことが非常に大事。復興したり成長したりと、悲しみを耐えようとすることに、どうやって寄り添っていけるか。変化に応じて見守ってほしい」と語り掛けた。
 
 その上で、「悲しみに明け暮れるのでなく、悲嘆を別の形に変えていく作業が必要。生きるエネルギーに転換していくことが大切だと感じる」と胸の内を明かした。
 
 受講した僧侶らは「相手の立場になって話を聞くといわれているが、3人称でも2人称でもないと気付かされた」「変化を見つめることが大切だと思った」と自らの姿勢を問い直していた。
 
 工藤さんに寄り添い続けた理佳子さんは「悲嘆を抱える人は、寄り添う人がそばにいることに気付けないこともある。それでも寄り添い続けることが必要」と話している。

 グリーフ研修は1月24日に大阪教務所で行われた。

(文化時報2020年1月29日号から再構成)
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看護と仏教、連携を模索

 医療では解決できない患者の思いに寄り添う場として、寺院を活用できないだろうか。看護と仏教が、在宅ケアなどで協働できる可能性はあるのか。そうした協力関係を模索するリレートーク「看仏連携」が、大阪市天王寺区の浄土宗大蓮寺(秋田光彦住職)で開かれた。医療・介護従事者と僧侶ら計約100人が参加。宗教者と医療者の実践例を聞いたほか、ワークショップを通じて課題を共有した。

「看仏連携」について話し合う僧侶と医療・介護従事者ら=浄土宗大蓮寺

 リレートーク「看仏連携」は2020年1月18日に開催された。参加した医療・介護従事者らは「医療・介護は閉鎖された世界。患者や利用者、家族を助けたくても寄り添えない部分がある」と口をそろえ、宗教者に対して死生観のプロフェッショナルとしての役割を期待した。
 
 緩和ケア病棟看護師の松山寛子さんは「医療従事者と患者には見えない上下関係がある。本当の思いを患者さんは話しておらず、こちらも受け止めきれていないと感じている」と指摘。立場の違いで本音が言いづらくなっているとし、「家族や友人らではない第三者が必要」と語った。

 宗教と関係のない人が、患者や家族の話を聞く「傾聴ボランティア」を行うケースもあるが、宗教者は死生観にたけているからこそ、医療現場に必要だという。松山さんは 「『天国に行ったら愛する人に会える』と言われるだけで、救いになる」と話した。

 兵庫県内の病院で勤務する看護師の松原綾さんは「僧侶であるからこそ、スピリチュアルな悩みに迫れる。寄り添っていただくだけでも救われる」と強調。「残された家族 のグリーフ(悲嘆)ケアにも僧侶の力が必要。泣ける自分がいることを知ってもらうこともできる」と語った。

大勢の医療・介護従事者が僧侶らの話に耳を傾けた=浄土宗大蓮寺

 在宅医療の現場でも宗教者が必要、との声もあった。国立東京医療センター看護師長の澁谷舞利子さんは「自分らしく、自宅で最期を迎えるために、僧侶との連携が必要」と説き、京都鞍馬口医療センター看護師長の一條智子さんは「患者は思いを話す場がない。終活など、医療では対応できないことを話し合える場が求められている」と話した。

 厚生労働省は、医療・介護や生活支援などを一体的に提供する「地域包括ケアシステム」を提唱。高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられる環境づくりを進めている。

 地域包括ケアシステムの目標年度は2025年。今後は在宅医療が活発になることが予想されている。訪問看護師のニーズが高まるとともに、宗教者には「人生会議」(アドバンス・ケア・プランニング=ACP)などを通じて早い段階から死生観を語り合うことが求められる可能性もある。
 
          ◇
 
 リレートークで登壇した僧侶や医療者らは、どのような実践を重ね、「看仏連携」が必要だと考えるに至ったのか。登壇者の主な発言を紹介する。

宗教とケアの出会いを
秋田光彦・浄土宗大蓮寺住職

秋田光彦氏 1997年に大蓮寺塔頭の應典院を再建し、社会・文化活動の拠点として開放。近年は多様な専門職と終活に取り組む

 お寺は全国に約7万4千カ寺あるとされる。コンビニや保育所の数をはるかにしのぎ、最大の社会資源であるといえる。
 
 資源には四つある。まず歴史・伝統、次に自然。鎮守の森という言葉があるように、お寺があると緑は守られる。三つ目は空間。人々が集まって祈り、学ぶ。そして時間。合理的に割り切れないあの世とか永続的な時間の感覚が、お寺にはある。
 
 仏教は伝統儀式や作法を通じて、日本人の死生観を文化的に支えてきた。一方で、少子化や家族の多様性により、寺離れや墓じまいが進んでいる。公共や臨床の場に宗教者が参画することも増えてきた。
 
 高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを全うできるよう、厚生労働省が進めている「地域包括ケアシステム」は、地域住民が助け合う「互助」を打ち出しているが、町内会があれば問題が解決するわけではない。どのような医療やケアを受けたいかを事前に話し合っておく「人生会議」(アドバンス・ケア・プランニング=ACP)は、病院から在宅へ、施設から地域へ、治療から対話へとケアの基軸を転換させており、宗教者には親しみがある。
 
 だが、宗教者には専門性がなく、ケアの現場に入ることへのためらいがある。ケアをする側には、宗教者への戸惑いがある。お互いがきちんと出会うことが大切だ。
 
 お寺は、いろいろな方々が出会い、交流できる場でもある。「双方が連携すべきだ」と、強く言うつもりはない。揺らぎながら、関わり合うきっかけができればと思う。

お寺で開く「介護者カフェ」
東海林良昌・浄土宗雲上寺副住職

 

東海林良昌氏 宮城県塩竈市生まれ。浄土宗総合研究所研究員、世界仏教徒連盟副事務総長なども務める。専門は浄土宗史など。

 在宅介護では、介護者が深い悩みを抱えるケースが多く、ときには命が失われる。高齢者同士による「老老介護」や、子育てと介護を同時に行う「ダブルケア」、介護離職などの問題が顕在化している。
 
 孤立しがちな介護者へのケアは、行政サービスの対象となっておらず、草の根の市民活動が重要だ。お寺は地域のよりどころ。介護者同士の情報交換や語り合いができるよう、自坊の雲上寺(宮城県塩竈市)で「介護者カフェ」を開催している。

 意見を交えるのではなく、共に悩みを語り、分かち合う。お下がりを利用し、お寺にある物を使っている。仏さまが見守っているという寺院の場の力と、僧侶や寺族の共感力が特色だといえる。
 
 浄土宗としても開催を支援しており、9都道府県20カ寺で実施している。地域の中で「助けて」と言える場所は、たくさんあっていい。お寺がそういう場所になればいいと考えている。

看護から仏事へのバトンパス
三浦紀夫・ビハーラ21事務局長

三浦紀夫氏 真宗大谷派僧侶。得度前は百貨店で10年間、仏事相談員として勤めていた。医療・介護と連携し、独居高齢者を支援している。

 終末期ケアからグリーフワーク(喪の作業)、つまり看護から仏事へのバトンパスが、私の考える第一の看仏連携だ。
 
医師や看護師は、患者の死亡確認から霊安室に向かうところまでは知っているが、その先どうなるのかは分かっていない。逆に僧侶は、その前のことを知らない。果たして、 バトンはしっかり手渡されているのか。投げ渡されているのが実情ではないか。
 
第二は、患者や家族の不安・不快な気持ちを和らげるアプローチ。接し方の難しい患者の元へ僧侶が行き、気持ちを聞かせてもらう。
 
そして第三が、僧侶による看護・介護職への「死の教育」だ。
 
私がセミナーで講義すると、医療者はかなりの確率で、人が命を終えたらどうなるかを「考えたことがない」と言う。そういう医療者は、しっかりした死生観を持たずに、人が亡くなる場面に立ち会っていることを自覚してほしい。

がん看護で考える看仏連携
志方優子・JCHO大阪病院がん看護専門看護師

志方優子氏 大阪府立大学看護学部博士前期課程修了。JCHO大阪病院では緩和ケアチーム看護師として患者や家族と関わっている

 2006年のがん対策基本法制定に伴い、がんとの共生がうたわれるようになった。医療者でも理解は深まっていないが、医療現場ではがんと診断されたときから治療と並行して緩和ケアを行い、生活の質(QOL)の改善を図っている。
 
 全人的苦痛(トータルペイン)という考え方がある。痛みやだるさといった身体的苦痛、不安や鬱などの精神的苦痛、社会的苦痛、それからスピリチュアルペインだ。
 
 「なぜ私がこんな病気になったのか」「罰が当たった」「自分の人生は無意味だった」。こうした表現で現れてくるスピリチュアルペインは、病院だけでは解決できない。解決できると思う方が、怖い気もする。
 
 医療者には、問題解決型の思考が染みついてしまっている。答えを出すことが急かされないコミュニケーションの場や、困っているときにそっと手を差し伸べるような環境が、必要とされているのではないだろうか。

仏教の死生観からケアを考える
鍋島直樹・龍谷大学文学部教授

鍋島直樹氏 龍谷大学大学院実践真宗学研究科長。臨床宗教師研修の研修主任として、心のケアに当たる僧侶を養成している

 「地域包括ケアシステム」においては、多職種連携が重要とされている。看護師と僧侶は、相互に補完する関係にあると言えるだろう。
 
 死は亡くなった本人だけではなく、悲しみ、弔う人がいて初めて成立する。死とは、悲しみと愛があふれることである。
 
 いつどんな所でも、心を支えてくれるよりどころとなるのが、宗教だ。仏教には死生観と共に救済観がある。善悪を問わなくてもいい。全ての死は悲しく、尊く、そのままで救われる。
 
 スピリチュアルケアに当たる僧侶は、患者の苦悩の中にある心の物語に寄り添う。原点は〝 Not doing, but being 〟(何かをすることではなく、そばにいること)。くず籠のようにそばにいて、ありのままの気持ちを受け止める。
 
 東日本大震災を機に東北大学で誕生した臨床宗教師の養成も進んでいる。布教や宗教勧誘をせず、相手の気持ちを尊重するのが特徴となっている。

(文化時報2020年1月25日号から再構成)
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寺社にウォーターサーバー 無償で1000台

 京都市内の寺社などに1000台のウォーターサーバーを無償で配置しようと、京都市とウォータースタンド株式会社(本多均社長、さいたま市)が2020年1月、連携協定を締結した。マイボトルを普及させてペットボトルの削減を図り、マイクロプラスチックによる海洋汚染を防ぐのが狙いだ。3年で配置を完了させる計画で、仏教教団や観光団体に協力を求めていく。

連携協定の締結式で握手を交わす門川大作京都市長(右)と、ウォータースタンド株式会社の本多均社長

 配置するのは、水道直結型で電源を必要としない浄水装置。内部に設けた3つのフィルターを通し、おいしい水を提供する。拝観者の多い寺社や公共施設に合計1000台を寄贈し、どこでも手軽に給水できる環境づくりを進めることで、マイボトルを持ち歩くライフスタイルを提唱する。
 
 工事費やメンテナンス費は、ウォータースタンド社が負担。京都市が仏教教団や観光団体との仲介役を担う。環境保全を積極的に推進しようとする企業には、有償での設置も提案していく。
 
 環境省によると、日本国内のペットボトルの年間廃棄量は約230億本で、うち京都市内は2億5000万本程度と試算されている。
 
 一方、ウォータースタンド社が大阪府内で行った調査では、府民の79%がマイボトルを持っているものの、大半が使っていなかった。同社は、浄水装置のある給水スポットが増えれば、マイボトルの利用が進み、京都市内のペットボトルの廃棄量は6000~1万本減らせるとしている。
 
 京都市は、1997年に国連気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で京都議定書が採択されたのを機に、環境保全活動を積極的に進めており、その一環として協定締結を決めた。節水型の洗濯機やトイレの普及で上水道使用量が低下し、水道会計の収入が減少していることも背景にあるという。
 
 マイクロプラスチックによる海洋汚染を防止する活動は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の一つにも掲げられている。全日本仏教会や複数の伝統仏教教団はSDGsを推進しており、ウォータースタンド社は、浄水装置の設置が寺社による社会貢献の一助になるとみて、積極的な導入を呼び掛けている。

(文化時報2020年1月22日号から再構成)
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